自分の仕事のその先が分かる
だからもっと仕事が楽しくなる
西川電業株式会社
工務部
- 第二種電気工事士(2022年)
- 日商簿記検定3級(2018年)
※内容は2024年7月時点のものです
試験センターには、幅広い年齢層の女性から、電気の世界にゼロから挑戦してみたいと問い合わせがあり、試験全般の質問から具体的な電気工事士の仕事の質問に至るまで、多岐にわたっています。
今回取材した橋本さんは、入社するまで、電気とは小学校の授業にまで遡るほど、接点がありませんでした。それでも、橋本さんは電気の業界に飛び込み、知識ゼロの状態から第二種電気工事士の資格を取得します。
そして、更なるスキルアップのため、電気施工管理技士の資格取得を目指し、今も働きながら努力を重ねています。
今回は、その「動機」を探りながら、資格取得までの道のりと、橋本さんの「今」をご紹介していきます。
私は高校では商業科で、卒業後は勉強したことを活かせる事務の仕事に就きたいと考えていました。そのために簿記やマーケティングなど、就職に有利となる商業系の資格を取得して、就職活動に向けて準備をしていました。
そんな折、夏休み前に高校生を対象とした企業による求人説明会がありました。私の母親がこの会社を知っていたこともあり、説明会に参加してみたところ、とても印象が良くて、この業界に興味を持つ「きっかけ」になりました。
そこから、電気の業界について調べていると、私には電気の現場で働いている人達が、格好良く、とても輝いて見えました。そして、そんな現場で働く人たちのお手伝いがしたいと思い、この業界に飛び込みました。
私が所属している部署は工務部送電課です。入社してからも自分の希望をしっかり伝えて、今は工務部アシスタントとして電気工事の現場で働く社員のをサポートする仕事をしています。事務職ですが、総務部の事務とはちがい、計画書を作成したり、CADを使って図面作成などを行っています。
私は高校では商業系の勉強をしていたので、電気の専門的な用語を覚えるのに苦労しました。
例えば、「クリスマスツリー」と初めて聞いたときは、装飾がついている木をイメージしていましたが、実際には送電線に取り付ける資材の「クリスマスツリー型ダンパ」のことでした。
また、図面の修正を依頼されて「この部分をテレコに修正して」と言われたときに初めて「互い違い」の意味だど知りました。
男性が多い職場ですので、正直、最初は質問しづらかったです。でも、分からないことをそのままにしないで、自分から一歩踏み出し、教えてくださいと言えたことや、同じ内容を繰り返し質問しても嫌がらずに、疑問があれば一緒に考えてくれる上司や先輩がいてくれたことで、乗り越えることができました。私と同期入社した仲間にも支えられましたし、会社全体で、男女関係なく接してくれる環境にも助けられたと思います。
私は、会社や現場で働く社員のために、役に立ちたいという強い思いがあります。でも入社した当初、私は仕事の内容や仕事のその先をよく知らないまま、言われた通りに淡々と事務処理をするだけでした。
私が定時で退社した後、現場担当者は会社へ帰ってきて、夜遅くまで残業をして事務処理をしていました。そして次の日、その殆どの処理が終わっている書類がデスクに置いてあり、私は印刷などの補足作業をするという毎日でした。
また、現場担当者とは顔を合わせるタイミングが殆どなく、電気の知識がない私に仕事を教えるくらいなら、その時間で自分がその仕事を片付けた方が早いと判断されても仕方がない状況でした。
そんな中で、もっと現場の皆さんの役に立ちたい、そのために、現場の仕事をしっかり理解したいと思ったことが、私の資格取得への「動機」でした。私が所属している工務部では、電気施工管理技士の資格が欠かせないのですが、電気施工管理技術検定には受検資格があり、残念ながら、当時の私の経歴では、すぐに受検ができませんでした。
そこで、受検資格を得る期間を短縮する目的と、電気の基礎をしっかり理解するために、第二種電気工事士の資格取得を目指しました。さらに、会社での電気技術者の在籍人数で入札できる工事の大きさが変わると聞いて、資格を取得して会社に貢献したいという思いがより強くなりました。
電気の勉強は、小学生の時の理科でやったくらいで、知識ゼロからのスタートは、想像以上に大変でした。働きながらでしたので、受験勉強の時間の確保にも苦労しました。それでも、一緒に受験勉強する同期の仲間がいたことで、お互いに支え合いながら頑張ることができました。
学科試験は、電気の記号を覚えることからはじめて、計算問題では少し苦労しましたが、過去の問題を何度も繰り返して勉強しました。分からないことがあっても、そのままにしないで会社の先輩に教えてもらうように心掛けました。
技能試験では、最初の頃は使う線が全部同じに見えたり、複線図の作成がややこしくて、かなり混乱しました。そこで、複線図などの正解を暗記するのではなく、どうしてそうなるかを理解するようにして勉強しました。実際の作業での技術的な部分については、ひたすら繰り返し練習したことと、先輩からは女性など握力が弱い人でも扱いやすい最新の工具や、工具の適切な使い方を丁寧に教えてもらったことで、スムーズに作業ができるようになりました。
さらに、県の電気工事工業組合が技能試験の講習会を実施していたので、その講習会に参加して、技術的な細かな部分まで、しっかり指導してもらいました。最初の受験にも係わらず合格することができた、大きな要因の一つです。
まず、私が現場担当者の指示の内容や、工具、資材の名前を理解できるようになったことで、仕事が上手く回るようになりました。
目的を把握したうえで、資材を発注することができたり、作業内容ごとにどんな工具が必要になるかなど、私にも理解できるようになりました。ちょっとしたことかもしれませんが、私には大きな変化の一つで、すごく嬉しかったです。
また、仕事の中身をある程度理解できるようになったので、社員が現場から帰ってきた時、私にお手伝いできることはないかと、積極的にアピールできるようになりました。この仕事にはこの段取りが必要ではないか、この準備をしておけば現場がスムーズに進むのではないかなど、仕事の先読みができるようになりました。
資格を取得したことで、「役に立ちたい」という思いが、「役に立てている」という実感に変化してきています。
ストレスなく仕事ができるようになり、充実感が増しました。私が資格を取得したことで、他の社員との信頼関係もより一層深まりましたし、仕事がもっと楽しくなりました。
また、仕事のその先まで理解できるようになったことで、自分の仕事の区切り方や、ここはもっと時間をかけて頑張ろうなど、自分自身で仕事のペース配分ができるようになりました。業務に優先順位をつけたり、時間配分を考えたりできますので、仕事とプライベートの切り替えがしっかりでき、今はプライベートの時間も、とても充実しています。
橋本さんの変化は、会社側にもメリットが大きかったと思いますが、いかがですか?
会社としては、現場担当者が夜遅くまで残業して、業務の後処理をしている状況を改善できないかと思案していました。そこで6年程前、事務職員として「工務部アシスタント」を増員することにしました。
現場担当者が現場から帰ってきた後で行っていた事務作業を工務部アシスタントに担ってもらうことで、業務の効率化を図り、残業を軽減させて、最終的には、社員全体のワーク・ライフ・バランスを改善させることを目的としました。加えて、工務部アシスタントには女性を積極的に採用し、電気業界の中で、女性の活躍の場を広げることも実現できました。
橋本さんをはじめとする、工務部アシスタントの活躍や、現場担当者が献身的な分業への理解を示すことなど、相互の協力により、作業は日々効率化されて、夜遅くまで残業しなけれならない状況は殆ど無くなりました。社員の皆さんには、ご家族との時間、趣味の時間など、プライベートの時間を大切にしてもらっています。
ただ、この業務改善は一朝一夕でできることではなく、ゆっくりと社員全体の相互理解を深めていき、目標を達成するまで5年かかりました。橋本さんのように、各スタッフが電気技術者の資格を取得して、正しい知識を仕事に活用できていることは、この業務改善を成功に導いた一因です。また、仕事と勉強の両立は大変ですが、会社として明確な支援制度を作り、キャリアアップを目指す社員を、福利厚生面でも全力でサポートしています。
これから資格取得を目指す方へ、アドバイスがあれば、お聞かせください。
私は、実際に電気工事の作業はしていませんが、電気工事士としての知識を活用しながら事務作業をしています。資格取得で得た電気の知識は、仕事の視野を広げてくれて、仕事をもっと楽しいものに導いてくれました。
電気の知識が「ある」と「ない」とでは、「現場で働く社員との一体感」や「仕事の達成感と充実感」が違いました。資格取得後の一体感と達成感は格別で、現場の皆さんの役に立つことができた実感は、私の仕事のモチベーションに直結しています。
資格を取得することで、自分を取り巻く世界が変わります。受験勉強は大変ですが、もっと気軽に資格取得を考えてみていいと思います。そのために、この資格を受けてみようと思える環境作りも必要かもしれません。
-あとがき-
自分自身に芽生えた「動機」に素直に従い、現場の役に立ちたいという気持ちが、彼女を育て、資格を取得し、その結果、相乗効果も加わって、彼女自身にも、会社全体にも、とても心地よい風が吹いているようでした。
アシスタントという事務職ですが、電気工事士の資格を取得したことで、正しく仕事全体を理解できるようになったことや、電気の知識を仕事へ活用して向上していく姿は、資格取得を目指す人へ、違う意味でのメッセージではないでしょうか。
また、知識ゼロからの挑戦は、未経験からの資格取得を希望する方や電気業界へ転職を考える人達、電気の世界での働き方を模索している女性の方にも、大きな勇気とヒントを与えてくれると思います。
インタビューを受けている橋本さんは、いつもニコニコしていて、とても楽しそうに話してくれるので、橋本さんの充実感が、取材している我々にもしっかりと伝わってきました。
記事執筆 広報:井村秀誠