前中 由希恵 さん
令和7年度

灯りが点る瞬間の感動は
いつも私をささえてくれる

前中 由希恵 さん
前中 由希恵 さん

なないろ電気通信株式会社

一般社団法人女性技能者協会 代表理事

保有資格
  • 第一種電気工事士(2011年)
  • 第二種電気工事士(2005年)

※内容は2025年3月時点のものです

前中さんは、なないろ電気通信株式会社に所属し、電気工事士として活躍する傍ら、一般社団法人女性技能者協会の代表理事としても活躍されています。
今回は、前中さんの電気工事士としての活躍や、女性の電気工事士としての視点からお話を伺います。

 

 

電気の世界に入ろうと思った「きっかけ」を教えてください。

高校を卒業した後、知り合いにアルバイトで電気工事の仕事のお手伝いを頼まれたのが始まりです。そこで高所作業車に乗せられて「楽しい!」と思えたことや、先輩の方々からいろいろと作業を頼まれ、経験していく中で、電気工事士の仕事に興味が湧きました。
簡単に「できない」とは言いたくない性格なので、当時は、必死に先輩の背中を追いかけました。毎日が新鮮な発見に満ちあふれて、楽しい現場でした。その中で、テープ巻きという作業があったのですが、テープ巻きが綺麗にできる人こそ凄腕の職人と教えてもらい、周りの人たちに認めてほしい一心で、テープ巻きを頑張りました(笑)。
実際、自分がやったテープ巻きを先輩の方々に褒められて、とても嬉しかったですし、その後も電気工事という仕事に対する興味が尽きなかったこともあり、自然と仕事に溶け込むようになっていました。

受験勉強は大変でしたか?

高校では、アパレル関連での就職を考え、色彩やテキストスタイルについて学んでいましたので、知識ゼロからの挑戦になりました。それでも、会社が電気工事士試験の講習会を申し込んでくれて、働きながら通いましたが、講習会のおかげで電気をより理解できるようになりました。
学科試験は、高校の時に違う資格試験を受験していたこともあり、その頃の勉強方法で攻略できました。技能試験は、昼休みに毎日、練習をするようにしていました。何度も練習しても時間内に作品を完成させることができなくて、かなり焦りましたが、周りから「女性では技能試験合格は無理なのでは」と言われていたので、見返したくて懸命に頑張り、一発で合格することができました。

 

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電気工事士として、特に思い出に残るお仕事を教えてください。

電気工事士として、20年程仕事をしていますが、最近では、ライティングの仕事にご縁があると思っています。
2019年に京都の七条大橋のライトアップイベントの企画と設営を手がけました。ライティングのための電気工事の他に、高校の時に勉強した「色彩」の知識を駆使して、LED照明によるライトアップの色彩調整も行いました。
このイベントでは、地域の方々と一緒に作りあげるという仕事ができましたし、何より、見に来てくれた方から「綺麗」と言っていただけたことが、とても嬉しく、電気工事士として誇れる仕事の一つとなりました。

 

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・京都:七条大橋のライトアップ

2021年には、竹を使用した照明器具である「竹あかり」を全国一斉に点灯するプロジェクトがあり、私は、八幡市で「竹あかり」を点灯する「竹あかりの夕べ」というライトアップイベントに携わりました。

 

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・竹あかりの夕べのライトアップ

2022年、大阪市内にある工業高校の卒業研究に「竹あかり」が採用され、私と私のチームは、一年を通して当時の三年生に対して指導役を務めました。
ライトアップに向けた電気工事の部分についてはチームでの作業になるので、仕事の段取りや作業の振り分け、各自の動き方など、実際の電気工事現場の疑似体験みたいになったと思います。最初は、ただ点灯させればいいと思っていた生徒もいたかも知れませんが、最後には参加した生徒全員、とても活き活きとして研究に取り組んでいました。
それを見て、私自身もとても嬉しかったし、何事も一歩踏み出すことが大事だと強く実感した瞬間でもありました。

 

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・前中さん(中央左)と参加した工業高校の生徒の皆さん

前中さんにとって「灯り」とは?

私にとって「灯り」は、生活に欠かせない、心のリズムを作るものです。
正直、最初は色温度があることすら知らなくて、電気工事で照明を設置する時も、図面通りに正確に施工して「問題なく点灯すること」しか意識していませんでした。
電気工事士として、テナント内での配線工事や照明器具の取り付けなど、内装電気周りの工事を担当し、ライティングにも配慮が必要な仕事が増えたことから、光の勉強をするようになりました。そして、光が人の体や心のリズムに少なからず影響していることを学び、「灯り」も電気工事での重要なファクターの一つと捉えるようになりました。
実際の照明器具の取り付けでも「単に点灯させる」のではなく、陰影を含め、「その場所にどのような灯りが最適なのか」を意識していますし、露出配線工事では、光との調和と配線の見せ方を意識して、誰が見ても「美しい」と思える仕上げを常に模索しています。
「灯り」は、私が電気工事士を続けることができた理由の一つなのかもしれません。

 

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・前中さんが電気関連の施工を行い、金属管の見せ方や灯りをコーディネートした店舗

お仕事の中で、女性の視点から気づいたことはありますか?

電気工事士の仕事には、人による適材適所はあるのかもしれませんが、性別は関係ないと思っています。
ただ、実際に電気工事士として仕事をしていく中で、特に難しい作業ではないのに女性というだけで凄く褒められたり、有給休暇や育児休暇の申請など、男性の皆さんは我慢していることが、女性だと簡単に承認されたりと、同じことでも男女で反応や対応が違うことに、今でも違和感があります。
仕事の環境的な部分では、私が電気工事士として働き始めた当初は、女性の電気工事士はとても少なかったので、現場にトイレや更衣室がないことが普通で、とても苦労しましたし、女性特有の悩みなどを打ち明け、励まし合える環境もありませんでした。
今後、より多くの女性が建設や電気の世界へ進出することで、これまで課題と意識されにくかった働き方や仕事場の環境に光があたるようになり、結果として男女ともに働きやすくなるのではないかとも考えています。

 

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男女問わず「働きやすい環境」を実現するため、一般社団法人女性技能者協会を立ち上げたのでしょうか?

女性からの視点では、建設や電気の業界には女性の技能者や技術者が少ないこともあり、出産や育児などの女性特有の悩みや励まし合える環境が整えられていないと、仕方なく離職となってしまうケースがあります。
また、男女問わず、自分自身を取り巻く環境がより良いものにならないと、離職者は増えるばかりですし、入職希望者も減るばかりです。実際、工業高校の生徒と一緒に卒業研究をおこないましたが、学校の生徒の中には電気工事士の資格を持っていながら、電気とは一切関係のない仕事に就く予定だという人もいました。

私が電気工事士として経験してきた中で、できれば経験したくなかったことは、これからの人たちには経験させたくないですし、女性の技能者や技術者たちが横に繋がりをもって、悩み事の相談、情報の交換や共有などを気軽にできる環境が必要だと思います。
そして、業界全体の「働きやすさ」が改善されることで、男女問わず、定着率の向上や入職希望者の増加が期待できるのではないかと考えるようになり、女性技能者協会の設立へ動きました。
ただ、これは私個人の考えだったので、協会を立ち上げる際、本当に協会は必要なのか、皆さんに問いかけたいと思い、クラウドファンディングで設立資金を調達する方法を選択しました。

協会が目標としていることは何ですか?

「働きやすい環境」の実現のため、女性の技能者や技術者の皆さんと横の繋がりを広げながら、今ある職場環境や従来からのルールについて、内在する課題に対し、丁寧に光をあてていきながら、その一つひとつにアクションを行っていきます。
また、小・中学校の子供たちに対し、私たちは一緒にワイワイものづくりをして、楽しさを体験できるワークショップを展開しています。そこで実感した作業の楽しさや仕事の魅力が、未来の技術者への希望の光になれば最高ですね。

協会内の一個人としては、1万人の女性技能者に会いたい!と宣言しています(笑)。いろいろとお話を伺いながら、自分自身に足りなかった部分は勉強になりますし、愚痴を言い合うだけでも、お互いに心強くなれると思います。

 

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・ワークショップで、小・中学生に「ものづくりの楽しさ」を体験してもらう

前中さん個人としての、今後の目標を教えてください。

電気工事士として基本中の基本ですが、私は、ストリップゲージなど、決められていることは必ず守ります。施工の時間がない場合や、施工が難しい環境下であっても、安心して安全に電気を使用してもらうためには、手を抜くことはできません。電気工事士として当たり前なことですが、妥協せずにやり続けることは簡単なようでいて、とても難しい。
その施工の基本を忠実に守りながら、小規模でも、お客様の顔が見える現場で、ライティングを含め、電気工事そのものが「一つのデザイン」になるような仕事がしたいです。
もう一つ、自動車の運転で例えると、運転免許を取得した後、実際には運転していない、いわゆる「ペーパードライバー」と言われている人がいますが、電気工事士にも資格を取得した後、様々な理由から、実務経験が少ない、もしくは全くないという人がいると思います。もし、電気の世界に戻りたいけど、現場を知らないから二の足を踏んでいる人がいるのであれば、実際の電気工事の現場や施工を知ってもらう機会を作り、一人でも多くの有資格者が、安心して電気の世界に戻ってこられるような流れをつくっていきたいと思っています。

最後に電気技術者を目指している方々へメッセージをお願いします。

資格をもっていないとできないことがあります。逆に言えば、資格があればクリエイティブになれて、自分のやりたいことに挑戦できるようになります。その挑戦が次の挑戦を呼んで、どんどん仕事が楽しくなります。また、電気工事の仕事は、人にとても喜ばれます。テナントで電気工事を行って、実際に灯りが点った瞬間、お客様はとても喜んでくれますし、私自身、それを見て、いつも嬉しくなります。
電気工事士の仕事は、社会に貢献できるだけでなく、自分自身の人生に大きな彩りを与えてくれると思います。

 

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-あとがき-
前中さんの取材は、前中さんが電気周りの施工を担当した、ご主人の店舗で行いました。金属管を用いた施工やコンセントの配色、内装と調和しデザインされた「灯り」など、お店全体が一つの作品のようで、その芸術性に思わず声が出てしまうとともに、とても心を惹きつけられました。
取材時には、前中さんのご家族が近くで待機されており、インタビューの合間には、お子さんのことを気に掛け、その時は「お母さん」の優しい顔に戻る前中さん。その優しさこそ、様々な課題に対し、光をあてていける原動力で、また、強い説得力になっていると感じました。

記事執筆:広報 井村秀誠

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