
普段の状態を覚えて記録する
それが安心・安全へのはじめの一歩

イオンディライト株式会社 九州支社 長崎スタジアムシティ第1サイト
長崎スタジアムシティ 商業棟 チーフ
- 第二種電気主任技術者(2023年度)
- 第三種電気主任技術者(2013年度)
- 第一種電気工事士(2021年度)
- 第二種電気工事士(2009年度)
※内容は2025年2月時点のものです
2024年10月に開業した長崎スタジアムシティは、サッカー専用スタジアム「PEACE STADIUM Connectedby SoftBank」、スタジアム直結のホテル「STADIUM CITY HOTEL NAGASAKI」、多目的アリーナ「HAPPINESS ARENA」、オフィス棟「STADIUM CITY NORTH」、ショッピングモール「STADIUM CITY SOUTH」および立体駐車場棟を備え、多数のテナントが入居する大型複合施設です。
イオンディライト株式会社では、長崎スタジアムシティと設備の運用保守を含めたファシリティマネジメントの包括契約を締結しています。
・PEACE STADIUM Conected by SoftBank(サッカー競技場)とホテル
各スポーツの試合が行われる日は、電光掲示板や照明演出などにより巨大な電力が使用されますが、その試合の途中で人為的なミスによる停電や、電気的な不具合の発生は一切許されません。また、スタジアムで試合がない時でも、イベントやショーが開催され、季節によっては巨大なイルミネーションの展示など、施設の至る所で常に大きな電力が使用されています。
今回は、緊張感のある現場で、電気設備からビル設備全般の管理を担当している田中さんにお話を伺います。
私は、学校では情報処理系が専門で、電気のことはよく知らなかったのですが、卒業後に入社した会社で電気設備のメンテナンス業務をサポートすることになり、それが電気の世界に触れる「きっかけ」となりました。そして、実務に携わる中で資格の取得を意識するようになりました。
最初は第二種電気工事士の取得からスタートしました。その頃は、電気主任技術者のことは全く意識していませんでしたが、当時の会社の先輩が「電気主任技術者を取れば無敵になれる」と、資格取得を積極的に勧めてくれていたのを今でも覚えています。
現在所属しているイオンディライト株式会社には、積極的に資格を取ろうという風土があります。それに感化されて第一種電気工事士試験を受験して合格、続いて電気主任技術者の資格取得にチャレンジしようと思うようになりました。
最初の目標は、第三種電気主任技術者でしたが、周りに資格取得者が多かったことや、自分への投資という意味合いと自分の強みをもっと活かしたいと考え、第二種電気主任技術者の資格取得までを考えるようになりました。
電気工事士では、技能試験の練習が大変でした。学校で電気の勉強をしていませんでしたので、分からないことが多くて苦労しました。
ひたすら事前の公開されている「候補問題」を練習するしかないのですが、結線のやり方などを丸暗記して練習するのではなく、何故そのような結線になるのかというルールや、どうしてそれが欠陥と判断されるのかなど、作業の一つひとつを丁寧に理解して、それを繰り返し、積み重ねていきました。最初は大変ですが、実際の仕事に携わる時にも必要になることですから、作業のルールを理解することは重要なポイントの一つだと思います。
第三種電気主任技術者の受験勉強は、科目数が多いこともあり、勉強時間の確保が大変でした。朝早く起きて勉強、仕事を終えて、夜も勉強。ひたすら過去問題を解き続ける毎日でした。ここでも、暗記ではなく、理解することを心がけて勉強し、合格することができました。
第二種電気主任技術者試験では、計算問題を中心に勉強しました。公式や答えの暗記に頼ることなく、回路図やベクトル図を描くことにより、理解することと、自分自身がしっかりと納得できることを意識しました。二次試験の論説問題には、部分的に分からないところもありましたが、問題の一部には実際に仕事で見たことがある内容もあったので、イメージを膨らませて答えを導き出しました。
勉強のやり方を確立できていたこともあり、第二種電気主任技術者試験の勉強時間は、第三種のそれと比べると半分程で、仕事をしながらでしたが、無理はありませんでした。
長崎スタジアムシティでは、スポットネットワーク受電方式という技術を使っています。スポットネットワークとは、複数の電力回線から電気を供給して、安定供給と無停電運転を可能にする高信頼性受変電設備です。
現在、スポットネットワークで3回線、特別高圧受電(22kV)しています。仮に1回線が停止しても、施設全体には特段の影響はなく、通常通りに営業ができます。2回線が停止した場合でも、残った1回線に対して負荷制限が必要となりますが、営業はできます。3回線全てが停止した時に、はじめて完全停電となります。言い方を換えれば、長崎スタジアムシティは「三重のバリア」に守られているということになります。
また、保安規程を初めて作成しましたが、用途の違う建物が1つの受電設備で繋がっていますので、利用者に支障が無いよう、毎年点検する部分と3年に1回点検する部分に分けて管理をしています。
電気設備の管理が主体となりますが、空調設備や換気設備、給排水など、施設の総合管理業務に携わっています。管理は30人程のチームで行っており、私はチーフという立場です。
長崎スタジアムシティは、新築の複合施設です。そのため、各設備の管理体制や管理方法を、一つひとつ積み上げていく必要があります。電気主任技術者として、これは貴重な経験であり、私の知識や今までの経験の全てを駆使し、チーフとして管理スタッフと連携を取りながら、安全・安心のため、管理ノウハウの構築について取り組んでいます。
地味に聞こえるかもしれませんが、毎日の状態を丁寧に覚えて、記録をしていくことが最も重要です。普段の落ち着いた状態を点検しながら把握して、サッカーの試合や催し物などがある時など、その実施や来客数の増加に伴い電気の使用量が増える時に、何がどう変化するのか、普段の状態と比較しながら、丁寧に観察して、覚えて、正しく記録に残す。
これを繰り返していくことで、何か異常があった場合、どこに異常があるのか把握がしやすいですし、初期対応が素早くなることで、異常による影響を小さくすることもできます。
実際の設備管理では、電気設備だけを見ていても不十分で、それに繋がっている空調設備も経年劣化より電気的な不備を起こしやすくなりますし、一見、電気とは関係がない建物の「雨樋」などの管理を放置すると、そこにゴミが溜まり、防水性能が低下し、水が躯体を通じて電線の方に影響して、結果として電気的な不具合を起こす場合もあります。そうやって建物全体に目配りしながら、いろいろな知識が付いていくことは、この仕事の醍醐味の一つです。
通常の状態を保つために懸命に努力していますが、通常というのは普通であるということですから、仕事の中で感謝されることは少なく、逆に怒られることの方が多いかもしれません。それでも、実際に専門用語を使えば一言二言で終わる内容を、お客さまの目線で分かりやすく説明して、感謝してもらったことや、日頃から記録していたデータなどから電気的な不具合の発生原因を自力で特定し、解決できた時などはとても嬉しいですし、やりがいを感じます。
受験勉強についてですが、電気工事士の学科試験では、繰り返し過去問題をやることになりますが、答えを暗記するのではなく、ゆっくりでいいので、できる限り理解しながら進めていくやり方をお勧めします。
技能試験では、正確な作業ルールを理解した上で、誤って結線した場合の対処方法を含めて、練習を重ねることが重要だと思います。また、試験で使用する工具は、練習と同じように作業できるよう、しっかりと調整しておくことも重要です。ただ、調整しすぎると、いつもと違う感覚になってしまい実力が発揮できないことがあるので注意が必要です。
電気主任技術者試験では、勉強と現実を繋げて考えると、受験勉強が楽しくなるかもしれません。勉強内容は、どうしてもマンネリ化してきますし、気持ちが落ち込むことも多いので、楽しめる要素を自分なりに見つけることでモチベーションを維持しやすくなると思います。
また、電気工事士試験にしても、電気主任技術者試験にしても、出題者の意図を理解できるようになることも重要だと思います。
電気の現場は、チームプレイです。勉強で理解したことを礎に、電気のことだけに捉われず、電気と繋がる世界にも目を向けることで視野が広がり、仕事をもっと楽しくしてくれると思います。
-あとがき-
勉強にしろ、仕事にしろ、その一つひとつを丁寧に積み重ね、理解していく。インタビューの間、田中さんは一貫してそのことを伝えようとしていました。それが試験合格や仕事での安全・安心の一番の近道で、また、様々なプレッシャーに打ち勝つ最良の方法だそうです。
普段、何事もなく競技場でスポーツを楽しめることや、大型の施設を安全に利用できることは、施設設備を管理する方々の日々の努力によるものです。その強いプレッシャーがかかる業務に対し、「それが私たちの仕事ですから」と、さらっと言ってしまう田中さんはとても格好良く、常に真正面から業務に向き合う姿勢に、私は深く感銘を受けました。
記事執筆 広報:井村秀誠