

NPO法人 ABCジャパン
※内容は2024年6月時点のものです
渡部さんが所属しているNPO法人 ABCジャパンは、神奈川県横浜市鶴見区にあり、主に南米の外国人支援をおこなっています。
この地域では、外国人労働者の多くが電設業に携わっており、その中には電気工事士の資格取得を目指し、電気工事士試験を受験する方もいます。
渡部さんは、日本語教師としての経験と第二種電気工事士としての知識を駆使して、外国人の資格取得を「やさしい日本語」で支援しています。
日本語の教師で、外国につながる子どものためのフリースクールや塾での高校受験指導、やさしい日本語で行う第二種電気工事士学科試験対策講座の講師をしています。
2009年に日本語教師の資格を取り、2010年からABCジャパンで日本語や数学を教えるようになりました。その頃、ABCジャパンでは支援している外国人の方から、電気工事士試験で出題される問題の日本語がよく理解できないため、試験に合格できないという相談を、数多く受けていました。
ABCジャパンの理事長から、試験問題の日本語や、その意味を教えてあげてほしいと相談され、勉強すれば教えられるだろうと簡単に考えて引き受けましたが、実際の試験問題や試験対策の参考書を見ても内容が理解できず、とても焦りました。
そこで切り替えて、「教えるためには自分で第二種電気工事士の資格を取るしかない」と思ったのがきっかけです。そして2016年に試験に合格して、翌年、第二種電気工事士の資格を取得しました。
すべて独学だったので大変でしたが、先生が落ちるわけにはいかないので必死に勉強しました。技能試験の対策には、Youtubeを利用しました。
受講生が希望するコースによって違いがありますが、オンラインによるライブ授業、録画された授業を視聴するオンデマンド授業、対面による授業を組み合わせて行っています。
遠方の方でも受講できるようになっていますので、実際に愛知や滋賀、京都に在住している方々も受講しています。また、すべての授業で「やさしい日本語」を使っています。
電気工事士国家試験対策講座とは別に、初心者のための電気工事士育成講座を用意しています。また、それぞれの講座で独自に作成した教材を使用しており、テキストの漢字には「ふりがな」を付けて、理解しやすいように工夫しています。
始めた当初は、南米の方が殆どでしたが、最近ではフィリピンやカンボジアといった東南アジアの方が増えてきました。
言葉の壁がありますので、先ずは学科試験合格が最優先の目標です。そのために、学科試験日までの毎週日曜日、計5回に渡って集中講座を開いています。また、実際に自分自身が学科試験を受験した時の経験を踏まえ、内容をかみくだいて教えています。
技能試験については、今のところは費用的な問題もありますので、各々が所属している会社の先輩や上司の方に直接教わった方がよいと考えています。
受講者数は、2017年度から2024年度の上期試験までで、約400名です。学科試験の合格率は、3割から4割です。技能試験については、受講者からの結果報告が殆どないため、正確な合格率は分かりませんが、技能試験に合格して、資格を取得できたと連絡してくれた人もいます。
受講生は、ある程度、日本語で日常会話ができる人に限定していますが、試験問題の日本語は、彼らにとって非常に難しいです。そこを「やさしい日本語」で、試験問題やその内容を正しく理解できるように解説しています。
言葉の壁がありますが、資格取得のためには受験をして、試験に合格する必要があります。受講生が試験問題やその内容がわからないまま、何度も受験することにならないよう、日本語教師としての経験も生かし、受講者一人一人のレベルを考慮しながら講義を行っています。
また、第二種電気工事士学科試験対策講座の場合は、専門用語や現場と試験での呼称の違いがありますので、その辺も意識しています。
「今、困っていることをなくす。将来、困らないように。」 ABCジャパンのモットーの一つですが、そのために私自身、より一層の努力をして一人でも多くの資格取得者が誕生するように頑張ります。
-あとがき-
講義はすべて日本語で行われていて、質疑応答もすべて日本語のみです。受講生はとても真剣で、積極性があり、講義に飽きている人や諦めている人、途方に暮れている人はいません。
一見すると、普通に見える講習は、「やさしい日本語」で成り立っていました。渡部さんの経験とアイデアから、それぞれの受講者に「理解できる日本語」で話かけているからです。
「やさしい日本語」とは、単に簡単な日本語ではなく、話し手の経験から発せられる「理解できるようにカスタマイズされた日本語」です。日本語教師と第二種電気工事士の資格を併せ持つことでできる、素晴しいスキルだと思いました。
記事執筆 広報:井村秀誠