

産業界ではDX、デジタル化、IoT等、コネクティッド化がますます進み、100年に1度の産業の転換点ともいわれ、それらに伴い電気技術も多様化している。電気は、我々の生活にとって必要不可欠だが、安心、安全に電気が使える便利さは電気技術者の活動に支えられている。イノベーションの活発化により電気技術者の活躍の場が、これまで以上に広く求められるようになってきている中で、「世界的電化の進展と我が国の電気技術者人材」をテーマに電気技術者が果たす役割を「再生可能エネルギー」、「サイバーセキュリティ」「ドローン活用」の取組みを通して語っていただいた。
JREオペレーションズは、FIT制度を活用のための再生可能エネルギー施設の開発を行うJRE(ジャパン・リニューアブル・エナジー)の子会社であり、太陽光、バイオマス、陸上風力等再生可能エネルギー発電施設のメンテナンスを担っております。
日本では、保安管理上の要求事項から、電気主任技術者の選任等を行いますが、海外においても、系統の安定化を担保するため、保安管理責任者を選任するという制度はあります。ただし、米国、欧州などには、日本の再エネ事業には無い様々な要素があります。例えば海外では、例外はあるものの事業開発に際して電力を使ってくれる顧客の確保とPPA(売電契約)の締結が必須となります。その中で発電電力量と顧客の需要量を合わせる施策を発電所ごとに行う必要があり、発電所ごとにマーケットがあるイメージです。このように海外では経済合理性の中で運用されており、日本の場合は供給義務があるわけではないので壊れたら直すという、自己保全で取組んでいます。しかし、日本もいずれ需要に供給を合わせる運用にシフトしていくと考えられますのでいわゆる事後保全だけではなく、データに基づき、予兆を検出して、予防保全に取り組んでいくということが必要になってくると思います。
日本でも経済合理性の中で再生可能エネルギーを運用することが必要ということですね。
再生可能エネルギーを定着させるためには必要なのではないかと考えています。世界にある風力発電設備のうち、日本にある風力の容量というのは、0.6%しかないです。日本のGDPは世界の6%なのでまだまだ風力発電設備が少ないと言えます。今後再生可能エネルギー施設が増えることで供給義務も発生していきます。シェアを広げるためにはそうした覚悟が必要です。
太陽光発電で言えばメガソーラーをつくって、売電すれば利益が出るということで終わらずに、次のフェーズでしっかり供給責任を事業者側も果たすべきということですね。ありがとうございました。
続いて田代さんに伺います。電力インフラというものは非常に重要であり、それがストップしたら、社会的混乱を招くことになってきます。電力関連業界におけるサイバーセキュリティの考え方について教えてください。
サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させることで、電力業界でもこれまでには存在しなかった価値を生み出すモノやサービスが提供されるようになりました。この『Society5.0』と定義される新しい社会では、IoTの進化により、あらゆる人とモノがインターネットで繋がることでサイバー空間だけでなくフィジカル空間もサイバー攻撃の対象となりえます。2020年から続く新型コロナウイルスのパンデミックは現在も続いており、企業においてはテレワークへのシフト、クラウドサービスの利用拡大が起きています。サイバー犯罪者はこの流れを利用して攻撃をしているように見えます。組織のネットワークへ気づかれないように直接侵入しランサムウエア攻撃を仕掛けている事件が多く発生していると認識しています。脆弱性、設定ミス、認証搾取等のネット接続やクラウド利用の落とし穴を突かれないよう対策を強化する必要性を感じています。
2004年創業した当社は、電気の需要と供給のバランスを調整する需給管理業務を代行することから業務を始めました。実際の電力流通は送配電事業者が行いますが、その流通の前提となる情報を集約・管理・監視するのが需給管理業務です。例えば、どれくらい電気が必要となりそうか、必要な電気をどう仕入れるか、実際とのブレはないかといった情報です。電力にまつわる情報を扱うことが仕事になっている当社は、経済産業省が2019年4月に策定した様々な産業に求められるセキュリティ対策の全体像をまとめたフレームワークを参考にセキュリティチェックを構築する等、力を注いでいるところです。
電力業界にサイバー攻撃をしかけるとすれば、その目的は何が考えられるでしょうか。
海外では社会のインフラを攻撃して、混乱を招くことが目的ではないとした身代金要求の事例があります。また、最近は、"二重脅迫"という形が増えてきていて、お金を取るプラス「お金を払わないと、この秘密の情報を公開するぞ」ということも増えていますので、目的も多様化しているようです。
ありがとうございました。電気技術者にとっては直接作業する領域ではないかもしれませんが、危険が身近にあるという意識を持つことも大切ですね。
さて、時代の変化に応じて、テクノロジーが多様化し、電気工事も多様化していると思います。また、電気設備の確実な保全もかなり重要性が求められる中でドローンを活用した電気工事にも注目が集まっています。関電工の武本さんはどのようにお考えでしょうか。
ドローンはその飛行特性を活かし、例えばダムの壁面や橋梁の裏側のような高い位置にある構造物の点検、広大な圃場に広がる農作物の育成状況の把握、土砂災害や火山活動区域のように立入が困難な現場での情報収集などで活躍しています。また、電線の点検や資機材の運搬、進捗管理、防犯などでもドローンが活用されています。ドローン活用の市場予測の推移は増加傾向を示しており、今後も様々な分野での活用が期待されています。一方、ドローンの普及に伴いドローンの活用に関する事故や事件が増え社会的な問題となっています。これを受けて国土交通省は航空法の一部を改正しています。十分な安全対策と法令知識に基づいた作業計画でのドローン活用が求められている状況です。
当社では、オフィスビル、工場、教育施設、病院などの電気工事やメンテナンスを業務として行っております。事業は国内外で展開しておりますが国内でのみドローンを活用した電気工事事業を進めています。電線の点検のほか、電線を架ける際の工事用のロープを電柱間に渡す作業や太陽光発電設備の工事の進捗状況を上空から撮影し、顧客への見える化、携帯電話基地局の伝播の確認などでドローンを活用し、電気技術者をサポートしています。
以前だと空撮の際はヘリコプターを飛ばしていたような場面でも今ではだいぶ技術が進んで細かい作業まで簡単にできるようになったということで、本当に驚きです。今後ともドローンがもっと活用できるようになるのでしょうね。
ドローンにいろいろなセンサーやカメラを取り付けることで、映像だけではなくて、熱の発生による異常個所の確認ができます。最近は、AI等を使って、自動で判別する技術もあるので、さらに可能性も広がってきています。現場で作業する電気技術者の安全性や作業の利便性にますます寄与できると考えています。
ありがとうございます。それでは金子さんにお聞きします。太陽光・風力・水力発電所などにおいては、第2種電気主任技術者、第1種電気主任技術者の選任が必要な大規模な再生エネルギーの設備が、今後ますます増加していき人材の必要性が高まっている状況です。さらに大規模なものだけではなく、家庭用の小規模施設や、小河川を使った小規模な水力を活用した発電施設なども増えており第3種電気主任技術者の活躍の場も注目されています。あらゆる電気技術者の必要性に迫られているということですが、御社の現場では、どういう電気技術者の人物像、能力が求められていますか。
第1種、2種、3種に関わらず、電気主任技術者にとっては資格取得後もいろいろ勉強をしていくことが必要だと考えています。電気事業法や、その施行規則である技術基準も、その解釈等は時代の変化に合わせて変化していくことを理解しなければなりません。そして、実際に回路を組み直したり、配線し直したり日々実践していくことも重要です。風力発電で考えると日本のシェアはまだまだ小さく、風車はほとんど海外製です。「どうしたら、故障の検出が高まるだろうか」とか、「発電量が増えるだろうか」と考え、海外の事例にも目くばせできるような人材、技術者が必要だと思っています。そのためには英語の知識も欠かせません。
海外との連携も大切だということですね。リアルタイムでテクノロジーを把握していくことによって、効率よく発電ができるようにしていく必要があると思います。今の時代にフィットした電気技術者というものを育てていくためには、何が必要になってくるでしょうか。
当社の風力発電、太陽光発電施設では第2種電気主任技術者を選任しています。主任技術者のための教科書もありますが実際に触ってみる、また、海外の事例に精通する技術者を育てることが必要だと考えています。そういった人材を育成するためにまずは第3種電気主任技術者の資格取得を支援し、自社の高圧発電所の保安管理で実務を5年間積んだ上で第2種取得を推奨しています。
第2種電気主任技術者の試験は難しいと聞いています。
基本的な電気の保安管理をする上の知識は必要ですので、第3種の取得というのは、どんな業務を発電所の中で担うにせよ、これに合格するべきだと思っています。第3種を取得後、第2種を申請するためには、実務経験が5年必要です。これを短くしたい場合は面談での試験を追加する等の制度があれば電気主任技術者の現場における活躍の機会もより増えてくるかもしれません。
貴重なご意見ありがとうございます。それでは田代さんに伺います。先ほどのお話のような、顧客サービス用のポータルサイトへの不正アクセスが起こる可能性が増えてきているということで、実際に、サイバー攻撃の被害も増えてきています。会社のリスク管理の一つとして、どのようにお考えでしょうか。
これまでは情報漏えいに関するサイバー攻撃が多かったと思います。しかし、電力ネットワークが攻撃を受けると、顧客、関係各社に被害が及びますので、自分たちだけの話ではなくなります。電力会社の需給管理においては、需要の予測を立てて、供給の計画を立てますが、そういったものを改ざんされると、電力の安定供給ができなくなる可能性が出てきます。情報漏えいだけではなく、社会インフラとしての電力システムそのものが、危険にさらされますので、非常に大きな話になると捉えています。一般的なセキュリティ対策では、セキュリティを担保するような機器を導入して、しっかり防御することが重要になります。ただ、未知の攻撃については、完全には防御できないので、実は、完全なセキュリティ対策というのはあり得ません。何かあったときに、早期に発見し、早期に対応・復旧が出来るような組織としての体制構築が重要だと考えております。
最近ではテレワークを推奨する企業も増えてきておりますので情報管理も複雑化、多様化しているのではと感じています。電気技術者の持つべき意識はどのように変化していくのでしょうか。
今までは、会社の中は安全で、会社の外は危険ということで、会社の外から中への防御対策がほとんどでしたが、今は、「安全な場所はどこにもない」時代です。テレワークが浸透し、以前に比べると社外から社内システムにアクセスできる環境が整うにつれ、社内のセキュリティ対策をどうするかということが、非常に重要になってきています。ITの専門スキルやセキュリティの資格を持たない人も、どんな仕事においてもセキュリティリスクがあるということを意識するということが大事かと思います。当社では、顧客の電気の使用状況を見える化して、電力の使用状況を制御する機器も開発しています。その施工は電気技術者が担っています。こうした物理的なモノとネットワークが融合される製品・サービスが増えていますので電気技術者にとってもセキュリティに関する意識は持っていただきたいと考えています。
電気技術者にとってはリアルの世界だけではなく、バーチャルやネットワークの世界についてもイメージする必要があるということですね。
今までは物理的なものだけを見ていればよかったかもしれませんが、センサーでつながるIoTの世界ではネットワークを介して情報を集め、大量のデータをAIで処理していくことになります。今後は電気技術者は物理的なモノ以外にも意識を向けることが重要になってくると考えています。
ありがとうございます。今のお話を受けて金子さんの方でお感じになることはありますでしょうか。
顕在化した目に見えるもの以外にも意識を向けるということは予防保全の考え方にもつながります。壊れたから直すだけではなく、見た感じでは、まだ現象が起こっていないけれども、データの中に隠れているものを見つけ出して、壊れないうちに直すことが、必要になってきます。データ解析に基づく診断とその後のフィジカルなメンテナンスの組み合わせが、我々としても今後ますます重要になってくると思っています。
ありがとうございました。電気設備の経年劣化や再生可能エネルギー発電設備が増加していく一方で、保安人材の高齢化、少子化による人手不足、自然災害のリスクもあります。その一つが今回の新型コロナですが、そういう中でも、安定した電力を継続的に供給することが必要とされています。
そのため、いろいろな課題を克服するために、電気保安分野においても、Iot、AI、ドローン等の新しい技術が導入されています。関電工さんにおけるドローンの現場での活用の可能性などについて教えてください。
ドローンについては上空からの点検や、電柱間に電線を架ける工事、携帯基地局との見通し確認等に、活用が進んでいます。電気は目に見えませんが、触れると感電するという危険がありますから、一般の人たちが触れないように、高いところに設置されるのが基本となっています。ドローンは、そういう高いところにある電気設備の点検などに、相性がとてもいいと感じています。高所作業の危険性を回避し、安全で効率よく作業を行うことができるようになりました。
関電工さんの中でのドローン事業というのは、現在どのように位置づけされていますでしょうか。
当社では、ロボット技術を積極的に活用していく方針で、その一環として、ドローンを活用するという活動を行っています。社内で活用することになったきっかけは私自身が5年ほど前に、テレビのニュース番組で取り上げられているのを見て、「これは現場で役立つんじゃないか」と考えたことです。そして、社内で「ドローン活用現場」の募集を行ったところ、「こんなところで使えるんじゃないか」というアイデアが現場から出てきまして、そこからスタートしました。
ドローン技術者と電気技術者は現場ではどのように連携していますか。
まずは、安全管理体制を構築して、安全管理者を設置します。そして安全管理者が事故を起こさずに現場でドローンを使えるための計画を策定します。そのときに、現場の状況も加味して計画するので、現場担当者も交えて、コミュニケーションを図りながら計画して、実際に使うようにしています。施工方法を決定する現場担当者に対して、ドローンの活用を含めた様々な施工方法があることを示し、選択肢を増やしてあげることが必要となり、そのための啓発活動を行うことが、一番大切なことではないかと思っています。
現場の電気技術者も時代の変化に合わせてドローンを使って何ができるか、ノウハウを身に着けていく必要があるのですね。
当社のドローン操縦は、現場の電気技術者が行っています。そのために、社内で講習会を開いてドローンの知識や操縦技術を習得し、各現場でドローンを活用できるようにしています。今後、若い人たちにも積極的にチャレンジしてもらいたいと思っています。
ありがとうございます。それでは今後の展望と、電気技術者に求められること、必要になってくる視点などについて、改めてコメントをお願いします。
今後数年はこれまで開発を進めてきた陸上風力が複数運転を開始し、成長ドライバーとなりますが、2030年に向けては洋上風力が大きく成長をけん引すると見ています。一般的に言われている通り、化石燃料からの脱却、再生可能エネルギーへのシフトだと思いますが、今後は蓄電が重要になると考えています。水素・アンモニアなどの発電燃料の選択や、送電線の増設を前提とした大規模蓄電設備が有利なのか、分散型の蓄電設備の方が合理的なのか等を俯瞰し、柔軟な思考・検討ができる技術者が求められています。
電気技術者はあらゆる業界に関係しています。そういう中で最も重要なのは、各個人がセキュリティリスクをしっかり捉えて、対策をとっていくことだと思っています。どんな仕事においても、デジタル化が日々進んでいて、スマホやタブレットなどを使いながら仕事をすることが多くなっていますが、一つのメールの扱い方だけで、ウイルスに感染する危険性は大きく変わってきます。昨今は、ランサムウエアがとりざたされていますが、被害は海外だけではなく、国内でも非常に増えています。セキュリティリスクというものが、ニュースで取り上げられているような話ではなくて、まさに自分が行っている業務の中で起こり得るということを、しっかり意識してもらう必要があると思っています。電気技術者が扱う機器がネットワークにつながるという世界になっていきますので、そういう危険と隣り合わせに居るということを、強く意識していただきたいと思います。
建設業界全体の問題として、人手不足という大きな課題があります。この業界は、建物を建てたり、設備を構築する労働集約型産業ですが、デジタルやロボット技術が、今、大変求められています。それらを駆使して作業を安全に、効率よく行うことが要求されますので、そうした技術に興味を持った若い人たちにどんどん入ってきてもらいたいと思っています。一方で、電気設備に関する知識や経験も、大切ですので、資格の取得は大変有効な手段となっています。私自身、第2種電気主任技術者の資格を取得し、今は第1種電気主任技術者の資格取得に向けて勉強中です。資格取得は大変ですが、若い人たちには、自己研鑽という考え方で、常に何かにチャレンジしていってほしいと思っています。
これからのキーワードである、カーボンニュートラル、スマートシティ、DX、IoTも、全て電気が関わり、さまざまなイノベーションによって、世界がますます大きく変わっていきます。しかし、それを誰が支えていくのか、安全を守り、保持していくのか、今回は大切なところを話し合えたかと思います。現場を支えてくださる電気技術者の方たちが、本当に必要とされています。キャリアとしても大きな可能性があり、できることが増えていけば、本当にバリューが上っていく資格だと思います。そしてその活躍の場はますます増えていきそうです。本日は誠にありがとうございました。
イノベーションが世界的に広がり、電気技術者の仕事も多岐にわたってきていて、さらに望まれています。日本でも、「カーボンニュートラル宣言」以降、再生可能エネルギーについて一気に関心が高まってきて、事業も動き出してきています。再生可能エネルギー分野について海外および国内の動向を金子さんより伺えますでしょうか。