

大成有楽不動産株式会社 東京ビル管理第一支店
オークラ プレステージタワー/オークラ ヘリテージウイング 管理事務所
副統括責任者
※内容は2020年11月時点のものです
ホテル「The Okura Tokyo」の電気主任技術者を務めています。ホテルオークラ東京からの建て替えで2019年にオープンした時からの電気主任技術者です。建物としてはビル2棟と美術館「大倉集古館」が1棟あり、ビル内はホテルだけでなくオフィスフロアもあります。これら全体について、電気設備の監視、不具合対応や年次点検の計画立案などを行っています。
どうしても設備に初期トラブルはつきものですから、その対応が多くて忙しかったです。漏電や保護回路の誤検知など、警報が鳴るたびに電気室へ飛んで行って対応していました。ただ、建物自体は「絶対に火災は起こさない」といった安全思想が強く感じられる設計になっており、初期トラブルが出尽くした後は非常に安全性の高い運用ができると思います。
電力会社からの受電は、通常の1回線でもぎりぎり足りるところを、22,000V・3回線で供給する「スポットネットワーク」という方式になっています。この方式は信頼度が高く、一部で事故が起きても停電せず残った設備に供給を続けられるのが特徴です。そこから変電して、8カ所の電気室に各2系統で給電しており、こちらも片方の系統で事故があってももう一方で給電し続けられるようになっています。そのほかに非常用発電機1台と常用発電機2台があります。
年次点検でも全館停電にならないように設計されていて、特に重要設備は系統を切り替えることで電源を落とさないまま運転できます。消防設備などだけでなく、中身が高価な食品冷蔵庫やワインセラーなども重要設備に含まれます。
電気設備を見ると、配線に使われているケーブルが普通のビルより太く、許容電流が大きいため大きな電流が流れても発熱しにくかったり、絶縁監視する保護装置の数が非常に多かったりするところに安全思想を感じます。また、電気室などが明るくて広く、作業がしやすいのもありがたいです。
スピードが大事だと考えています。事故が起きた時、それが拡大傾向のものだったら、大きな事故につながるかどうか時間との勝負になります。警報が鳴ったら誰よりも早く現場へ行き、危険だと判断したときはちゅうちょなくブレーカーを落とす、といった決断が必要です。
それと、基本的にお客さまとスタッフは顔を合わせないようにフロア内のエリアが分かれていますが、お客さまの目に入ったときに不快な気持ちにさせないよう、身だしなみや所作には気を付けています。
高専の電気工学科を卒業し、企業の電算室などに置くような大型の事務機の保守の仕事を約30年勤めました。電子回路を扱う現場の技術者から、全国の技術者をサポートする技術支援、技術の責任者まで経験する中で、「一生技術屋で食べていきたい」と思うようになり、40歳から電気主任技術者の勉強を始めるとともに、ずっと続けられる仕事としてビルメンテナンスを選びました。
46歳で第3種電気主任技術者に合格し、その後現在所属している大成有楽不動産に転職、中型オフィスビルを6年半担当しました。さらにどうせやるならもっと大きいところもやってみたいと考えていたところ、The Okura Tokyoの担当になることができました。
通勤の電車内くらいしか勉強する時間がありませんでしたが、とにかく暗記はせずに理解することだけ考えました。過去問集も買わず、基本から理論を理解するように努めました。
きちんと理解したことは試験のときだけではなく、実際に仕事をするようになってからも役立ちます。試験には6回目で合格したのでそこだけ見れば遠回りだったかもしれませんが、結果的にはしっかり理解するよう勉強してよかったと思います。
事故対応の時にブレーカーを切るかどうかといった判断も、裏付けとなる知識があれば自信をもって決断できます。また、トラブルの際にクライアントにおわびしたり是正を提案したりする場合にも、技術面からしっかり説明できるだけの知識が必要です。
このホテルでもオフィスフロアに入居した外資系企業が欧米メーカーのUPS(無停電電源装置)を設置する際、中性線を接地した事例がありました。欧米では一般的な方式ですが、日本では中性線非接地が普通で、接地したままでは漏電警報が鳴りっぱなしになってしまいます。技術面から丁寧に説明して説得し、非接地に直すことができました。
職場には優秀な若手の同僚がいますが、そんな彼らも手順だけ覚えて基本をわかっていないと、応用が利かず間違いを起こす場合があります。そういうことがないよう、電気の「基本の基」を伝えたいと考えています。
私はやりたいことだけを仕事にしたいと考えるたちで、電気主任技術者の資格を取ったおかげで50歳を過ぎてからでもやりたい仕事に就くことができました。電気の世界は電子・通信の分野から高電圧の電力分野まで幅広く、しかもそれらが全部つながっていて、経験してきたことがムダになりません。特にこれから電気の仕事を目指す人は、「この分野は自分に任せろ」と言えるような学習をし、立ち位置をつかんでほしいと思います。