重枝 勇志 さん
令和2年度

リストラ経て電気主任技術者に転身
夢と責任大きい宇宙の仕事へ

重枝 勇志 さん
重枝 勇志 さん

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)

施設部 射場施設課(鹿児島県)

保有資格
  • 第二種電気主任技術者(2011年度)
  • 第三種電気主任技術者(2009年度)

※内容は2020年9月時点のものです

お仕事の内容を教えてください。

鹿児島県の種子島にあるJAXA種子島宇宙センターで、統括電気主任技術者をしています。宇宙センターの敷地は広大で、ロケットの発射場だけでなくロケットや人工衛星の整備棟、追跡設備、火薬などの推進薬関連工場や燃料供給設備などさまざまな施設があり、高圧受電点も島内に5カ所あります。その5カ所すべての管理を行っています。点検計画などを作成し、保守点検の現場作業を行っている設備保全会社に指示したりします。

加えて、宇宙センターでは安定した電力供給のため、出力19,000kWの大崎発電所をはじめとした自家発電設備を敷地内の各地区に備えています。これらの発電所の運用管理も重要な業務です。もちろんこうした電気関係の仕事だけでなく、JAXAの施設部職員としてのさまざまな仕事も日常的にやっています。

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宇宙センターの施設管理の特徴や、苦労するところはどんなことですか?

施設が非常に多いので、毎週どこかで停電を伴う点検や工事をやっている感覚です。一方で、ここではまずロケットの打ち上げが最優先なので、打ち上げスケジュールに支障が出ないように点検等の計画を立てなければなりません。そのためには機構内外の各方面と十分に調整することが必要です。同じ設備でも毎回決まった時期に点検というわけにはなかなかいきません。

また、種子島宇宙センターは世界一美しいロケット発射場といわれていますが、海に面していて台風も多く、電気設備にとってはいい環境とはいえません。設備を多重化するなどの対策をとっていますが、ロケットの打ち上げ時に万一のことがないよう、日頃からしっかりと保守管理することが大切です。

JAXAの仕事は他ではできないもので夢ややりがいがありますが、大きな責任やプレッシャーも感じます。もちろん一般のビルや工場の電気主任技術者も責任は重いですが、JAXAでは打ち上げの失敗が国際約束にも影響してしまうかもしれないので、自分の仕事にも大きな責任を伴います。技術的な部分だけでなく、例えば病気で倒れて業務が止まってしまうことがないように、体調管理にも十分気を配っています。

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種子島でのお仕事で印象に残っていることはありますか? 

先日(2020年5月)実施したH-ⅡBロケット9号機の打ち上げ準備作業中に、新型コロナウイルス感染症と最前線で戦っておられる医療従事者などへの感謝の気持ちを込めて、ロケットのブルーライトアップを行いました。打ち上げまで時間のない中でしたが、照明装置が爆風で壊れないよう工夫して設置したり、青色の光できちんと監視を継続できるか確認したりと、電気チーム総動員でなんとか無事間に合わせることができました。JAXAでもなかなかできない経験ができたと思います。

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©JAXA

JAXAでお仕事をされるようになるまでの経歴を教えてください。 

大学で機械工学を学んだ後、重電メーカーのグループ会社で通信装置や光デバイスの設計といった弱電系の仕事に約20年携わりました。しかし大幅な赤字計上を受けてのリストラで早期退職し、ベンチャー企業へ転職するも3年で倒産。私や同世代の仲間たちは技術者として実力があるとの自負がありましたが、みんな転職に苦労したり収入が3分の1に減ったりして、現実の厳しさを痛感しました。

そうした中で、電気主任技術者の資格を持ち、定年後も電気管理技術者として活躍している方々を目の当たりにして、強電系への転身を決意。資格取得を目指すとともに、設備保全会社に転職して実務経験を積みました。まず第3種電気主任技術者に合格し、2年後に第2種も取得。その後、66kV特別高圧設備がある外資系企業の工場を経て、経験者採用でJAXAに入りました。宇宙やロケット関連の職場に憧れがあり、また種子島という離島での生活にも興味がありました。

電気主任技術者試験にはどのように取り組みましたか?

もともと電気系なので、基礎から学ぶ必要がなかったのは幸いでした。とはいえ40代になってからの資格取得は簡単ではありません。特に第2種受験の2年間は、自宅ではなく図書館に通って勉強しました。周りに受験生たちがいて、試験合格に向けて本気で勉強するぞという雰囲気を味方につけて勉強できたのが効果的だったと思います。

自分は論述問題が苦手で、得意の計算問題では確実に点をとろうと力を入れて勉強しました。最終的に計算問題だけでノート10冊分くらいになりましたが、それくらいやらないと合格できなかったと思います。 

資格を取得してよかったと感じることはありますか? 

資格のおかげで選択肢が広がりました。電気主任技術者を取った前と後では、転職活動をするときでも扱いが明らかに変わりました。特に第2種以上になると人材が限られていて、確保に困っている企業や組織も少なくありません。私がJAXAのような人気の高い職場に入ることができたのも、資格の力が大きかったと思います。

また、電気主任技術者は保全の責任者ですが、電気設備の大規模な新設・改修工事に携わることも多いです。その際に必要になるB種接地抵抗値の計算や高圧・特別高圧線路の地絡電流の計算、各種強度計算などは、試験に向けて学んだことがそのまま実践に役立っています。

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これから資格取得を目指す人や、後進へのメッセージをお願いします。

電気主任技術者の試験は難しいですが、取得できれば働きたい職場で働ける可能性が高まりますし、定年後も長く働けるチャンスがあります。苦労するだけの価値はあるので、ぜひチャレンジしてください。

ただし、資格だけあっても実務経験がなければ主任技術者の仕事を任せてはもらえません。例えば、何かトラブルがあったときに落ち着いて対処するには、やはりある程度の経験が必要です。試験の勉強に加えて、実務経験もしっかり重ねてほしいと思います。

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