活躍する電気技術者達

地域とのつながりを会社の強みに
電気工事の認知度向上にも注力

活躍する電気技術者達
  • 檜山 義則さん
    桧山電業株式会社(東京都板橋区)
    代表取締役
  • <保有資格>
  • 第一種電気工事士(1990年度)

――電気工事の世界に入ったきっかけを教えてください。

 1988年、電材店(電気工事用の資材などの販売業)を営んでいた父が病気で倒れ、急に後を継がなければならなくなりました。当時は大学の電気工学科在学中でしたが、電気とは別の業界に就職するつもりだったので全く準備はできていませんでした。それでも、周囲の人に仕事のやり方や会社・業界のことを教えてもらったりしながら、なんとかやっていけるようになりました。
 2年後の90年、当時はバブル期で案件が多かったこともあり、ある大手のお客様から「工事もやってほしい」と言われたことをきっかけに電気工事業にも事業を拡大しました。このときも何もわからない状態から始めて、職人さんに話を聞いたり一緒に現場に行ったりしながら仕事を学んでいきました。同年に第一種電気工事士を受験して、合格しました。

――これまで受注したお仕事で、特に印象に残っているものは?

 10年くらい前になりますが、ある病院の新築工事を途中から請け負うことになりました。その病院は200床くらいの規模で、4カ月ほどで仕上げる必要があり、自分が現場代理人として現場管理をし、サブ代理人を3人入れて、毎日100人くらいの職人を動員してなんとか完成しました。
 短期間で仕上げるには、後戻りをしないことが第一です。図面と現場が違ったりすると後戻りの原因となりますから、現場優先で何度も足を運んで工程に問題がないか確認しました。施工後のチェックも入念に行いました。

――ご自身も現場経験を経て、今は社長として経営に専念しておられます。電気工事会社の経営を担う上で大切にしていることは何ですか?

 会社の仕事を外部へアピールしていくことが社長の仕事だと考えています。外部へ発信していけるようないい仕事をするために重要だと感じているのが人材です。人をいかに教育・育成していくか、そのマネジメントが重要だと思います。
 例えば最近の若手はマニュアル世代といわれますが、OJTだけで仕事を身に付けてもらうのはなかなか難しい。基本となるマニュアルがあったほうがいいのですが、現場で使えるレベルのマニュアルは少ないのが実情です。中小の会社が独自にそうしたマニュアルを作成するのは難しいですから、電気工事工業組合などの組織の力を活用してマニュアルの充実などに取り組んでいくのが理想かなと思います。

――そうした人の育成の中で、電気工事士などの資格をどう位置づけていますか?

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 電気科卒業の人は第二種電気工事士をほぼ取得していますが、最近は人材獲得競争が厳しく、普通科出身の新人も意外と多いです。そういう人は工業組合が実施する電気工事士試験の準備講習会に参加させたりして、資格を取得してもらいます。また、事務系でも基本となる第二種を取得しておくとお客様の見方が変わったり、仕事に生きるので、できるだけ受験してもらっています。
 忘れないでほしいのは、電気工事士は不可欠な資格ですが、特に第二種は最低限の土台であって、取得してからも勉強してスキルアップするのが重要ということです。現場に即した技術や知識を身に付けていくと同時に、頭の柔らかいうちに上位資格にもどんどん挑戦していってほしいと思います。

――電気工事をめぐる環境が変化する中で、どのようなビジョンを持って経営に取り組んでおられますか?

 地元に特化する方向で進めています。もともとは大手工事会社の下請け仕事が多かったのですが、地元の工場・企業など会社から近い範囲で、お客様と直接取引する仕事中心へ方針転換しました。自社で営業活動をする必要があって大変ですが、お客様と直接意見をやりとりすることで、よりよい仕事ができます。「お客様の期待を超越する」というのが当社の社是であり、そのためにはお客様と話をしてニーズを読み取ることが不可欠です。
 今、東京の建設業界は活況ですが、将来的には仕事が減っていくことも見込まれます。そうしたときに、直接お客様とつながって培った信頼関係が強みになると考えています。

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――地元重視という点では地域活性化にも積極的に取り組んでおられます。

 地元の法人会などにも参加して、地域のイベントに協力したり、行政・地域・企業でコラボレーションして何かできないか話し合ったりしています。一例として、板橋区の区民まつりには東京都電気工事工業組合で10年以上前から「未来の電気工事士」というブースを出展し、子供向けに延長コードの作成体験などをやっています。もともとは他県でやっているのを見て取り入れたのですが、ここをきっかけに今では都内各地に広がりました。

――何度か名前が出てきましたが、業界団体である電気工事工業組合の活動にはどのようにかかわっていますか?

 都の組合には、工事業を始めてすぐに入りました。若かったのでいろいろな仕事をやらされましたね(笑)。都だけでなく、上部組織である全関東電気工事協会(全関)や全日本電気工事業工業組合連合会(全日電工連)の活動を通じて、全国に仲間ができ、いろいろな勉強をさせてもらいました。最近では、全国から選ばれた技術者が競う「電気工事業技能競技全国大会」で、競技課題を作成する部門の責任者を務めました。
 電気工事業は建設業の一部であり、共通する課題として高齢化や人材不足があります。電気工事士の受験者数は増えていると聞きますが、電気工事業界への入職者が増えているわけではありません。もっと広く認知してもらえるよう、業界全体でアピールに取り組んでいかなければなりません。

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――では、若者に向けて伝えたいことやアピールしたいことは?

 電気工事は大変な仕事ですが、やりがいもあります。自分が携わった現場に電気という血が通い、生きた建物になっていく喜びをぜひ味わってほしいと思います。