活躍する電気技術者達

水力発電所などの保安監督者として
電力の安定供給に努める

活躍する電気技術者達
  • 尾﨑豊藏さん
    四国電力株式会社
    高知支店副支店長
  • <保有資格>
  • 第1種電気主任技術者(1996年取得)
    第2種電気主任技術者(1986年取得)
    第3種電気主任技術者(1983年取得)

―お仕事の内容は?

高知県いの町にある本川(ほんがわ)水力発電所をはじめ支店管内18か所の水力発電所や送配変電など輸送設備の工事、維持及び運用に関する保安の監督をしています。幼少の頃から高知県伊野町(現いの町)にある実家近くを流れる仁淀川で釣りをよくしていて、上流域に水力発電所があったことで親近感をもっていました。大学では電気工学科で学び、大学の卒業論文では高電圧研究室で放電に関する研究に取り組みました。学んだ電気の知識を活かす事ができる四国電力に入社し、希望した水力部門への配属が叶ったことに対して会社には感謝しています。

――水力発電について教えてください。

水力発電は高い位置に溜めた水を水圧管路などを通じて水車に流し込んで回します。水車と発電機は軸で繋がり、水車が回れば発電機が回り発電します。どのぐらいエネルギーを得られるかは水の落ちる落差、流量及び水車と発電機の効率で決まります。火力で発電を開始するには通常数時間から1日程度かかりますが、水力なら発電開始まで数分程度です。このメリットを活かし、特に夏場の昼間など電気使用量がピークになるときには水力発電が活躍します。発電方式ですが、機能上の分類で言えば、河川流量を調整する池をもたず、自然流量に応じて発電する流込み式や貯水池より小さい調整能力をもち、池容量が日間あるいは週間調整を行うことのできる調整池式、河川の季節的な流量変化を年間あるいは月間にわたり調整する池容量をもつ貯水池式、深夜や週末などの軽負荷時の余剰電力などを利用し、下部貯水池の貯留水をポンプによって揚水して上部貯水池に貯水し、重負荷時に上部貯水池の水を放水し、水車によって発電する揚水式があります。最近では、太陽光発電など再生可能エネルギーの系統連系も増加してきており、需給バランス上昼間に揚水運転を行う機会も増えてきています。

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――平成29年4月に管内の分水第一発電所(高知県いの町)の改良工事が終了し再稼働したとのことですが、苦労した点はありましたか?

設備の老朽化や背後斜面の地すべりによる設備損壊リスクを回避するため、地上にあった3台の水車・発電機を1台に統合し、地下に移設しました。新設の地下発電所は、約120メートルの地中に建設し、新設の放水路は約200メートルあります。既設備の撤去を含め約4年半に渡り工事を実施し、最大出力は改良前から3300kW増え、2万9900kWになりました。今回の工事は、当社にとって本川発電所以来約30年ぶりとなる地下発電所建設工事で、掘削工事における周辺の住民や構造物への悪影響防止対策や狭小な地下空洞内での複数工事の並行実施による作業スペースや資機材置場の確保のための業者間調整など、数多くの苦労があったと聞いています。一般に、水力発電所は自然豊かな山間部に建設することが多く、地点ごとに落差や流量が異なります。今回は、比較的保守がしやすいフランシス水車1台を導入しましたが、水車は地点ごとの基本諸元に基づいて種類の選定を含む個別設計が必要であり、発電機も水車出力や電圧調整面からのニーズなどに応じて個別設計となります。このため、不具合対応やオーバーホールなどの保守面でも何かと苦労が多いですが、その分やり甲斐もあります。また、これは日々心がけていることですが、電気主任技術者という電気事業法に基づいて選任される責任の重い職務のため、習得した知識や実務経験などを活かしながら、関係者と連携し水力発電所の安定運転や電力の安定供給に努めています。

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――水力発電所におけるオーバーホールの難しい点は?

発電所の重要度や不具合発生状況などにもよりますが、約10年から20年程度でオーバーホールを行います。実際に水車や発電機を分解すると追加修理が必要な部位が見つかることもあり、対策を検討する必要があります。発電所によって異なりますがオーバーホールの期間は約2か月から4か月程度かかり、その期間は発電所を止めるため、発電量の減少になります。難しいのは発電を止めているオーバーホールの工事期間に合わせて老朽化した配電盤などの設備更新や土木工事を着実に終わらせなければならないことはもちろんのこと、追加修理を極力工期を延伸させることなく実施する点で、社内 や業者の方との打ち合わせなど迅速かつ的確な判断が求められます。

――これまでにあった水力発電所での困難な作業経験を教えてください。

ある支店に発変電課長として赴任する直前、発電所で発電機の固定子巻線が損傷し運転が止まってしまうという事故が発生しました。就任早々、復旧に向けた社内体制を立ち上げましたが、事故復旧に約2か月かかりました。関係者と連携して原因を究明するとともに巻線の組み立て工程では昼と夜の2交代制で対応しましたが、現地復旧工事においては特に安全面や品質面に十分配慮するとともに進捗状況の把握に努めました。また、管理上のポイントを確認しながら技術者のやりくりをしましたが、関係者との連携の重要さを改めて実感しました。早期復旧のプレッシャーの中、復旧対応を通じて新た な知識も多く得ることができました。

――電気主任技術者の資格取得は、現在の業務にどのように役立っていますか。

3種から1種までを通じて電験の受験勉強で水力発電に関わる基礎知識の底上げに大いに役立ちました。以前、発電所の新増設工事の設計に従事し、設備のレイアウトや主要機器購入の仕様書作りを行う際にJEC(電気学会電気規格調査会標準規格)など多くの規格資料や技術資料に目を通しましたが、それまでの業務経験に加え、受験で得た知識がベースとしてあったこともあり比較的理解しやすかったことを覚えています。

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――資格取得を目指す方にアドバイスを。

電気は日常生活に必要不可欠で社会発展にも大いに寄与するため、やり甲斐のある仕事です。日進月歩で様々な技術革新が進む中、電気の重要性は高まることはあっても下がることはありません。私が電験の資格取得を目指したきっかけは、大学時代の電気工学を学んでいない隣人から『高校時代の先生の発言として、電験3種は難しく、なかなか取得できない』、『自分も電験3種にチャレンジしてみるつもりだ』と聞き、当該資格に一番関係のある私が同資格の存在すら知らず恥ずかしい思いをしたことで『よし、それなら私も』と考え、あえて難しい電気主任技術者の資格にチャレンジしました。3種は大学生の時に取得し、2種と1種は入社後に取得しましたが、私の身近な所には電験の取得者や新たに挑戦する先輩や同僚がいたため、これが大いに刺激となって本気で勉強したことが功を奏し、合格することが出来ました。これまでの受験勉強を通じて、仕事で従事している水力発電の知識はもちろんのこと、その他の電気知識の幅や深さを広げることにも役立ちました。最後にアドバイスを送るとすれば、勉強の途中挫折しそうになった際は、受験のきっかけを思い出してください。最後まであきらめずに頑張れたのは『どうして自分は今この資格取得にチャレンジしているか』を明確に持っていたことです。きっかけとなったことに対して思いが強ければ強いほど心の支えになると思います。最初のきっかけを忘れずに持ち続けていることが大事だと思います。