活躍する電気技術者達

命と財産を守る大切な仕事と訴え
未来の電気技術者育成に取り組む

活躍する電気技術者達
  • 昆 和夫さん
    岩手県立黒沢尻工業高等学校 教諭
    (岩手県北上市)
  • <保有資格>
  • 第二種電気工事士(2008年度)

――担当学科を教えてください。また、進路指導についてもお聞かせください。

 現在は、電気科2年生の担任を受け持っており、陸上部の顧問もしていますので、とても充実した毎日です。電気工事士取得に向けた指導講習は放課後1、2時間行います。ただ、文武両道を掲げクラブ活動にも力を入れているため、ラグビーなどの団体種目の生徒たちも参加しやすいように、授業前の朝7時からも講習は行っています。
 工業高校なので目標を持たせるために、入学してすぐに進路を意識させます。その準備は3年間でやるものと指導しています。縁あって電気科に入学してきたのだから、将来的に電気系の仕事に就いてもらいたい。2年生で第二種電気工事士、3年生で第一種電気工事士の資格取得を目標に置き、その動機づけとして入学して早い時期に企業を訪問し、電気工事の第一線で活躍する人に講演して頂いております。

――電気工事士の資格を取られたきっかけを教えてください。

 もともと本校のOBですが、当時は電子科に在学し、卒業後は大学、大学院でプラズマ解析などの弱電を研究しました。教員志望でしたが、採用枠が少なく、最初は産休補充で実習助手として本校電子科に着任、その後教諭として正式採用され先生になりました。その後、宮古工業高等学校(岩手県宮古市)に転任し、初めて電気科の担当になりました。教える立場上、自分も資格を取らなければと考え生徒と一緒に勉強して取得しました。
 その頃の生徒たちは目標を持たずに入学してきた生徒が大半でしたので、勉強するように話をしてもなかなかやらない。そこで「電気工事士になれば安定した仕事に就けるから一緒に頑張ろう」と呼びかけ、時には弁当をご馳走したりしながら、学校に夜の9時10時になるまで残って勉強しました。落ちたら面目がつぶれるというプレッシャーもありましたが、楽しかったですね。そのとき一緒に頑張った生徒の中には、資格を活かして電気系の仕事で頑張っている子もいます。昔の苦労が今の私の原動力となっています。

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――東日本大震災のときは、どうされていましたか?

 その時、沿岸部の宮古工業高校に赴任していました。顧問をしていた陸上部の練習中に大きな揺れを感じ、海沿いのグランドから1キロメートルぐらいを生徒たちと小走りで学校に戻り、校舎の3階に避難しました。津波は1階部分だけをさらった感じで難を逃れました。地域ではなかなか電気が通らないところもあり、電気工事士がフル回転で休み無く働いている姿を目の当たりにしました。電気工事士の数を増やさなければならないと肌身で感じ、育成していきたいと思う気持ちがさらに強くなりました。

※宮古工業高校:岩手の工業高校で唯一被災した高校。学校周辺はすべて水没、避難してきた生徒、住民は、一晩学校の3階で電気も暖房も無いなか、励まし合って過ごした。学校再興は約1年半後。

――生徒たちに電気工事士の資格を取りたいというやる気を持たせるために、なにか工夫されていることはありますか?

活躍する電気技術者達

 震災後、現在の黒工に再び戻ってくることになりました。この辺りの内陸に住む生徒は直接、津波の被害にはあっていませんが、電気が無くて暗く寒かった経験をみんなが持っています。宮古の被害状況を写真などで見せていることもあり、電気工事の大切さを訴えると伝わります。また、高圧の電気を扱える第一種電気工事士は、岩手県内では50代、60代がほとんどです。将来的に人手不足が懸念されており電気の担い手が必要なことを伝えています。

――技術指導する上で、気をつけられていることはありますか?

 丸暗記させて合格させるのではなく、徹底的に中身を理解させて、資格を取って現場で使える技術を教えるように工夫をした学習をしています。例えば、テキストでは電線ケーブルの先端を2センチメートル剥いてとだけあっても、実際には3センチ剥いて余らせ、先端を切ってペンチでアタマを叩いておけば仕上がりが滑らかになり実作業では便利です。試験だけを考えると短時間で作業を終えた方がいいのは分かりますが、そこにとどまらないようにしています。

――実践的な作業技術は、どのようにして取り入れているのですか?

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 技能五輪で世界チャンピオンになった方が毎年、本校を訪れて教えてくださっています。また、地元の電気工事会社の方が実際に現場で行っている効率の良い方法を指導してくれています。こうして身につけた実践力が評価されて求人につながっている面があります。地元の工事組合が本当に協力的で、県内の工業高校すべてに余った電線を練習用に提供してくれますし、地元自治体のキャリア教育の一環で実習材料費などの補助を受けています。また、本県では県もサポート体制に積極的で産官学が一体となって電気工事士の育成を支援する形ができ上がっています。

――今後の目標と、生徒たちに強く訴えていることを教えてください。

 2014年度に第一種電気工事士の合格者数が全国の工業高校の中で2位になりました。模擬問題を出すときに、私が考えた応用問題を解かせています。その年は応用問題が出て他校が合格者数を減らす中、普段どおりの合格者数を出した本校が上位に進出することができました。目標はクラス全員が第一種電気工事士に合格することです。ただ、目指すは社会に求められる人材育成です。生徒たちには日頃から礼儀、感謝、挑戦という言葉の大切さを最も重要なこととして繰り返し呼びかけています。電気工事は命と財産を守る大切な仕事です。資格を取って地域、人のためになる仕事に進んでもらいたいと思っています。