活躍する電気技術者達

座談会

製造、サービス、農林水産、自動車、家電、防災など様々な分野でロボテク製品やロボット技術の利用が増えてきた。またAI(人工知能)の活用やIoT(モノのインターネット)といったネットワーク構築に向けた動きも加速する中で、電気技術者の業務内容が多様化すると同時に活躍の場も広がりをみせている。このような背景から今回、「ロボット設備の現場からみえる新しい電気技術者のカタチ」をテーマに、同業界の第一線で活躍されている技術者にお集まりいただきトークセッションを開催。ロボットやシステムを開発し導入する現場において電気技術者に何が求められていて、知識・技能がどういった場面で活かされているかなどを討論した。

活躍する電気技術者達

福田:経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)からロボット産業の将来市場予測というものが公表されていますが、それによると国内生産量は金額ベースで2015年は1.6兆円、20年には2.9兆円、35年には9.7兆円と20年間で市場規模が6倍になると予想されています。今回はロボット業界に携わる技術者に求められる資質や、今後実務遂行能力を伸ばしていくために電気技術者は何をするべきかということを考えていきたいと思います。
それでは初めにパネリスト様の企業概要とどのようなロボットを取り扱っているのかをお話しいただきたいと思います。

細見:私たちは、ロボットを使ってシステムを作る“ロボットシステムインテグレーター”で、約40年間この仕事に取り組んでいます。創業時から「3K(きつい、汚い、危険)職場の過酷な作業はロボットに!人はより創造的な仕事に」をテーマに掲げており、3K職場のロボット化を推進してきました。代表的なのは大型トラックやバスのギアを作るための熱間鍛造ロボットで、1250℃で加熱した真っ赤な鉄の塊をプレス機に移動させるものです。そのほか24時間動き続ける化学薬品の分析ロボット、産業用ロボットをサービス分野に転用して、たこ焼きやお好み焼きを作るロボットなども作製しました。

野口:産業用電機品・FA(生産ラインの自動化)、映像・セキュリティー、エネルギー分野のソリューションビジネスを行っており、提案から始まって設計、施工、運用、保守、更新をワンストップで展開しています。FAソリューションでは空調、照明、太陽光といった設備に関するエネルギー管理システムの構築。工場の中での合理化、設備監視などを進めながら最終的には予防保全につなげるシステムの構築。そのほかトータル的な生産向上を目指したソリューションの提案も手がけています。もちろんロボットシステムを用いた生産設備も提供しており、IoT化までを手がけています。

井上:FAとロボットを組み合わせたソリューション事業を展開しています。ロボットはハンドを中心に事業展開しているのが特徴で、世の中にないものを作っていきたいと考えています。現在開発を進めているのはトマトの収穫ロボットで、早朝から深夜遅くまで収穫作業している農家の方を手助けするものです。トマトのほか、桃や唐揚げをつかむハンド、さらには形が定まっていない物をつかむハンドの研究開発を行っています。

活躍する電気技術者達

福田:ありがとうございます。それでは次に現場において苦労されている点について教えてください。

野口:お客様から「こういう製品を作りたい」という要望に対して、まずはその製品に使用するいろいろな部品について教えて頂き、そこから生産システムの設置スペースや生産能力などを聞きながら設備を構築していくことになります。まったく白紙のところからそれを実現していくわけで、やはり実現性をいかに確認していくかが非常に難しいところです。最近は電気や電子の分野における加工、組み立て、検査といったようなシステムの需要が増えており、小さい部品や数多くの部品をいかにハンドリングできるかといった点の検討や検証も重要になってきています。お客様から現物をお借りしてテストを繰り返すことになるのですが、設計の見直しは常に発生します。オーダーメイドで一品一様のものばかりなので、検討や検証というところで苦労があります。

井上:食品業界向けにロボットを供給していますが、サニテーション性、つまり殺菌作業や清掃作業に優れているかどうかという点が重要視されます。ですから設計にあたっては機器の部品点数を極力減らすことから始まります。また機器の分解や組み立てにおいても工具を使用せずにできることや、洗浄面からは、IPと呼ばれるIEC(国際電気標準会議)の防水・防塵の保護規格に対応することになります。異物の混入防止、予防保全、外国人労働者が増えていく中での多言語対応を含めた操作性など留意すべき点は多々あります。

福田:電気技術だけでなく、機械技術や複数の技術知識が必要だということですね。

細見:今の食品業界のお話にもあるように、業界には業界の常識があるので、そこから勉強しないといけません。食品業界に限らず、言葉や単語を知っておかないと何も理解できていない状況で仕事に入ることになります。そのため私は新しい業界に入るときには辞書を作るようにして理解を深めています。またお客様に対する仕事内容の説明や、現場に行ってロボットシステムを引き渡す際の説明にも有効です。

活躍する電気技術者達

福田:技術者不足や若手技術者に対する教育という点では何をされていますか?

細見:人手不足でロボットに対するニーズが高まっているのですが、現場ではFA技術者が足りません。我々もロボットのシステムを作るときに一番ネックになるのが、リレー回路の代替装置として開発された制御装置であるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)のソフト開発者で、電気系の技術者がいません。ロボット開発のシンクタンク「i-RooBO Network Forum」の理事を務めていることもあって、2016年に経済産業省からの受託でFA人材の育成を目的にした「IATC」(Industrial Autometion Technology Center)を作り、ITとものづくりの両方に精通した技術者、FAのプロフェッショナル人材育成に取り組んでいる状況です。

野口:現場において電気技術は必須です。電気がないと機械もロボットも動きません。
また知識と技能を含めた教育が必要と考えています。そういった意味で、新入社員教育は第二種電気工事士と第一種電気工事士の試験合格までを念頭に置いて実施しています。システムエンジニアリング的な教育も行っており、自分たちが作ったプログラムで機械が実際にどのように動くのか体感させるような教育を盛り込むほか、今後はシミュ レーションソフトを使って機械の動作確認を行う教育も検討しています。

井上:先輩技術者と若手技術者を1対1のペアにして教育するトレーナー制度を導入しています。師弟関係を作ることで、人間関係の構築にもつなげています。この仕組みを作ったことで「資格は必要だ」という認識も芽生え、資格取得も自然の流れになっています。その中で電気系若手技術者のスキル底上げの一環として電気工事士資格を取得させています。またコミュニケーション力も重要で、社員間での挨拶やお客様への挨拶をしっかりするよう指導しています。技術力のアップも必要ですが、人間性を高めてい くことも重要だと考えています。

福田:なるほど。皆さんの会社では、国家資格を重要視しているということですね。
本トークセッションの主催者である一般財団法人電気技術者試験センターでは電気主任技術者試験や電気工事士試験を実施していますが、勉強すべき内容として電気の基礎理論、配線図の解読、電線の接続などロボット産業においても欠かせない知識ばかりです。野口様の会社ではこのような国家資格に対して会社としての方針があると伺っておりますが、その内容をお聞かせください。

活躍する電気技術者達

野口:弊社でも国家資格の取得を推進していますが、特殊工程という位置づけではんだ付け作業、ねじ締め、圧着作業といった技能が必要になる作業については社内検定を設けています。また資格を取得した技術者しか、その作業をしてはいけないというような有資格者作業というのも設定しています。これらの取り組みは企業のコンプライアンス向上、品質の確保といった部分につながると思います。お客様に安心して使っていただける設備を納品することが最大の使命です。

福田:確かに電気工事士試験では、電気理論や法令などの筆記試験だけではなく、実際に工具を使用して出題された配線工事の課題を完成させる技能試験もありますので、合格者は、基礎的な技能(技術)も身につきますね。
それでは次の質問に移りますが、産業用ロボットは最終的に現場に据え付けられるわけですが、それを行う電気工事も建設業ということになります。
しかし最近は建設業も人手不足で工事の進捗状況などに影響が出ています。そういったことに対応できるロボットがあればということでアイデアを披露いただけますか。

細見:ケーブルや電線の被覆を取って長さを規定し、それを束ねるという作業は今でもあります。また建物や工場でケーブルラックを高所に取り付ける作業もあり、それをアシストする装置を製作しました。

井上:主は電気工事技術者で、副はロボットという関係性の中で、人間をサポートするロボットもアイデアの一つではないでしょうか。例えば自立型のパートナーロボットが重たいケーブルを天井裏に引き回す作業を行うなどです。そしてケーブルの導通チェックはロボットが行い、技術者はその結果を管理することでロボットの作業精度や品質を上げていくことができるのではないかと考えます。

福田:ありがとうございます。それでは最後の質問になりますが、5年後から7年後の近い将来、どのようなロボットが求められるのか?それに対してどのように対応しようとお考えですか。

細見:AIが産業そのものに大きなインパクトを与えて、産業構造が大きく変わろうとしています。一方、普通のアーム型ロボットはモーターが6個ついていて、その先にアームがついているだけで何でもできるわけではありません。人間に近い作業ができるようにするには、AIをどのようにしてロボットに盛り込んでいくのかが課題だと思います。AI化したロボットが一体どういうものであるか、ある意味責任を持って考えなければならない気がします。

野口:人型、操縦型、人間の体に装着して動かすロボットなどロボットにもいろいろな種類があります。FAの世界において、これらのロボットの活用はまだまだですが、今後を追求していかなければならないと思っています。センサーなどを使用して様々な情報を計測、数値化するセンシング技術をベースに、AIという技術があって、それを稼働させていくための駆動技術があります。そしてデータ通信技術を含め、IoTなど様々な技術が融合することでロボットも発展していきます。いろんな技術を習得してい くことが必要と考えています。

活躍する電気技術者達

井上:人と一緒に作業をする協働型ロボットの需要はこれから出てくると思います。そういった中で人は製品や商品に対して直接価値を生む作業を行い、直接価値を生まない部品の準備など間接的な作業はロボットがするべきだと考えています。自律走行型のロボットを今後開発していきますが、世の中のニーズにしっかりとマッチするような形で付加価値を供給していきたいと思います。

福田:やはり人間とロボットが協働していく世界というのは、これから我々電気技術者が検討していかなければいけない課題ということですね。
本日は大変興味深いお話をお伺いしましたが、そろそろお時間となりますのでトークセッションを終了させていただきます。パネリストの皆様、本日はありがとうございました。

活躍する電気技術者達