活躍する電気技術者達

資格が技術者としての自信と評価に
周囲の支えで仕事と家庭を両立

活躍する電気技術者達
  • 前田 宏枝さん
    前田電気株式会社(福井県大野市)
    代表取締役副社長
  • <保有資格>
  • 第一種電気工事士(2007年度)
  • 第二種電気工事士(1998年度)

――電気工事の世界に入ったきっかけを教えてください。

 もともと家が電気工事店をやっていて、自分も大きくなったら電気屋になるものと親に仕込まれていました。おもちゃ代わりにラジオを分解して遊ぶような、珍しい女の子だったと思います。
 ただ、親も私を職人にするつもりはなかったようです。女がなるような仕事じゃない、という考え方がまだ強かった時代ですし、高校は普通科に入りました。でも、実際に電気工事現場で手を動かす仕事がやりたいという気持ちがなくならず、試しに第二種電気工事士の試験を受けたら合格してしまいました。そこから本格的に電気工事の技術者を目指すようになりました。

――その後、第一種にも合格されるわけですが、試験勉強はいかがでしたか。

 基本的に独学です。作業は大好きで技能試験は楽しかったですし、子供の頃からやってきたことも役立ちました。逆に筆記試験の勉強は嫌いでしたが、実技の仕組みをちゃんと理解するにも知識は必要だと自分に言い聞かせて勉強しました。加えて父の指導もあって二種には合格できました。
 一種の勉強は会社に入ってからで、当時は住宅関係の仕事は経験がありましたが工場などはやっていなかったので、高圧関係の内容を理解するのに苦労しました。参考書などを見ていると、実際の現場作業ではどうなるのかイメージしにくい内容も出てきます。そういうときは現場の職人さんに聞いてみると、実際にやって見せながら説明してくれました。やはり自分の目で見られると理解しやすかったです。

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――これまでに経験してきた現場のお仕事で、印象に残っているものはありますか。

 一種の資格を取って、自分が現場代理人となって公共工事を受注できるようになったのですが、その最初の仕事が印象的ですね。県警からのお仕事だったのですが、現場が県内各所に散らばっていて、車で2時間くらいかかるところもありました。発注者や現地機関との調整・手続き、作業員とのやりとりなどで、工事そのもの以上に始めるまでが大変でした。事前の準備や段取りの大切さを実感しました。

――現在はどのようなお仕事を?

 現場管理だけでなく、経営、営業、経理、労務管理などをローテーションして幅広く経験を積んでいます。現場管理では現場へ安全パトロールに行き、ミーティングや作業の様子を見て問題がないかチェックしたりします。 事務系の仕事でも、現場や資格の勉強で身に付けたことは役に立ちます。例えば営業に行った先で簡単な修理などの相談があれば、そのまま自分でやってしまいます。そうするとお客さまは驚き、「この人はちゃんと技術を分かって営業しているんだな」と思ってもらえます。今では当社は技術者だけでなく、事務の女性社員も資格を取るよう奨励しています。

――仕事をする中で電気工事士の資格を取って良かったと思うことはありますか。

 資格があるかないかで周囲の評価が変わります。特に女性はどうしても軽く見られがちですが、第一種電気工事士などを持っていることで見る目が変わり、一人の技術者として扱ってもらえます。自分としても自信になります。
 それと、昔に比べて電気工事士の資格が浸透し、今や一種を持っているのがあたりまえになってきています。資格を取るメリットというより、今後電気工事の第一線でやっていくには資格取得が必須と考えたほうがいいかもしれません。

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――お子さんもいるとお聞きしましたが仕事と家庭の両立は大変ではないですか。

 子どもは5人いて、一番上が中学生、一番下は今年(2018年)生まれたばかりです。平日の日中はおばあちゃんに子どもを見てもらったり、外出にはおじいちゃんに連れて行ってもらうなど、子育てや家事は家族で分担してやっています。子どもたちにも、自分のことはできるだけ自分で管理してもらうようにしています。そうした協力のおかげで両立できています。

――電気工事の世界で女性の活躍の場をさらに広げていくことについて、どのようにお考えですか。

 4人目を妊娠していたときに、現場代理人が2人必要な大きい現場を担当したのですが、産休・育休中を含めた仕事のローテーションや事務所の分煙化など、色々な面でサポートしてもらいました。以前に比べ女性が働くための環境は整ってきていますが、それを当たり前と思わず、周囲のサポートに感謝することを忘れてはいけないと思います。これまで私がやってこれたのは、理解し協力してくれた人たちのおかげ。「報恩謝徳」の気持ちで、助けてもらってきた恩を仕事を通じて周りの人たちにお返しするとともに、これから増えていく女性電気工事士たちがもっと働きやすくなるよう、少しでも力になれればと考えています。
 一方で周囲の人たちも、女性活躍だと持ち上げたり気を使ったりしすぎると、かえって女性が勘違いしたり、居づらくなってしまう懸念があると思います。性別で区別しすぎず、本人の能力で評価するよう意識することが必要でしょう。

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――これから電気工事士を目指す人たちに伝えたいことは。

 私は少し普通じゃない環境で育ったのであまり参考にはならないかもしれませんが、電気ほど面白い仕事はない、生まれ変わってもまたやりたいと思っています。現場ごとに違いがあってAIなどが取って代わるのは難しい。そうしたところの面白さややりがいを伝え、新しい人たちを育てていくことが大切だと考えています。
 それと、電気工事の大枠は昔から変わりませんが、工具や工法の進化によって力作業が減るなど、かなり楽で便利になりました。今なら女性でも男性と遜色なく働ける場面が増えています。興味のある女性には、恐れずにこの業界に入ってきてほしいと思います。