活躍する電気技術者達

座談会

近年、情報化社会の進展によって電気設備等の電気工事をはじめ、再生可能エネルギーの促進に係る省エネルギー製品への切り替え、さらにはIT発展に伴う機器・装置のIoT化など、時代の変化に応じ、電気工事の多様化や電気設備のより確実な保安が求められ、電気技術者の活躍の場は広がりをみせている。このような時代の流れに伴い、今回「広がる活躍の場~果たすべき電気技術者の役割とは~」をテーマとし、「建設」、「再生可能エネルギー」、「情報通信」、「充電スタンド」、「植物工場」などの5つの分野で活躍する技術者に集まっていただき、各分野における電気技術者の活躍の現状や将来の展望について語る座談会を開催した。

活躍する電気技術者達
活躍する電気技術者達

福田:本日お集まりいただいた皆様から、電気技術者が活躍している現状、さらには将来展望を踏まえ、皆様が所属する分野における電気技術者についてお聞きしたいと思います。ご存知のように電力、通信、道路、鉄道などに代表されるように電気が途絶えると多くの機能が失われてしまうため、電気技術は社会にとって非常に重要なものです。また昨今のIoTや再生可能エネルギーを使った発電システムなど、すべての局面で電気技術が重要な要素となっており、その中で電気技術者の姿も変化しています。そういった点を踏まえて、はじめに建設分野においてはどのような動向があるかお聞かせください。

活躍する電気技術者達

阿部:高度情報化社会に対応しようと30年ほど前から電力システムや情報通信システムを強化した「インテリジェントビル」というものが建設されてきました。その後、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故で、全国の原子力発電所の稼働停止を契機に火力発電所の稼働比率が高くなり、温室効果ガスを大量に発生してしまう問題が注目されました。我が国の二酸化炭素排出量のうち、約3分の1は建物のライフサイクルによって生ずるため、建物の運用段階におけるエネルギー消費量を低減させるということが、とても重要なことになってきています。
そこで国が進める省エネルギー対策として、建物自体が消費するエネルギーを正味ゼロ(ネット)にするという考え方が注目され、それがいわゆるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)や、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)と呼ばれるものであります。今後建設工事を計画し、設計していく上では、ZEBやZEHという新しい考えに基づいて設計をすることが求められてきます。設計段階から建物のエネルギー全体を見通し、エネルギー管理を可能とするビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)を導入し、自然エネルギーを有効に活用して発電システムと併せて利用するなどが挙げられます。例えば太陽光とか風力、バイオマスといったものの導入、またエネルギー効率の高い機器類を使用するなどです。LED照明が最たるものですが、そういった機器を設計の段階から積極的に採用していくことが必要です。
これからの社会では電気エネルギーに関する知識と技術は非常に重要視されてきます。特に電気技術者については、社会的に非常に高いニーズがありますし、これからますます活躍する場面というのが広がっていく技術者だと考えています。

活躍する電気技術者達

福田:ありがとうございます。私自身、ライフサイクルで二酸化炭素の排出量を考えるという傾向が非常に強くなってきていると感じています。そういう意味ではビル建設後の維持や運用段階において「電気設備管理」という観点から重要な点はありますか。

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阿部:昭和時代の建築物というのは、耐震基準の見直しとかIT化の面でおよそ40、50年の間隔で建て替えられます。ですがこれからの建物というのは「100年建築」と言われ、非常に長寿命化していきます。
その中で、電気設備の更新目安が現在はおよそ20年から25年ぐらいと言われていますが、長い間使用し続けたほうが環境負荷を低減するという意味でも非常に良いことであり、そのために適切な点検整備というのは欠かせません。建物には、「受変電設備」と言って超高圧電源や高圧電源を一般家庭などで使えるように電圧を落とすための電気設備があり、この受変電設備に不測の事態が起きると、建物全体が停電し、機械類が使えなくなります。それは社会的にも影響が大きく、特に工場などにおいては生産が止まるということにつながり、会社の経営にも大きな影響を及ぼすことになります。
そのような不測の事態を避けるという意味で電気設備は定期的に保守点検を行い、機器および設備などの老朽化や劣化を早期に発見し、まずは状態を把握する。そして機器などを改修するか更新するかという適切な判断をするのが電気技術者の仕事になります。電気技術者というのは、社会に不可欠な電気エネルギーを安全に使用していくために重要な役割を担っていると考えています。

活躍する電気技術者達

福田:今までに技術者として印象に残っている仕事などがありましたらお聞かせください。

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阿部:15年ぐらい前ですが、ちょうどその頃、官公庁における新築の建築電気設備工事の入札で「総合評価方式」が導入され始めました。「環境負荷の低減」と「ランニングコストの低減」という評価項目があり、そこで私は高効率の高圧変圧器を採用することを提案しました。その結果、評価基準がトップとなり、仕事を受注することができました。変圧器の中の鉄心部分で電力が熱となって消費される損失を「鉄損(てつそん)」と言いますが、それを減らす点が高く評価されました。当社において初めての総合評価方式案件の受注を獲得した時は非常にうれしかったです。

活躍する電気技術者達

福田:ありがとうございました。

活躍する電気技術者達
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福田:続きまして、電気設備を動作させるのに欠かせないのがエネルギーです。現在、再生可能エネルギーの利用が促進されていると思いますが、その分野の動向について斎藤さんいかがでしょうか。

活躍する電気技術者達

齋藤:先程のお話にもありましたように環境問題が挙げられます。世界的な動きもあり、日本においてもどうクリアしていくかが今後の課題です。これから数十年に渡って二酸化炭素の排出削減という方向で行けば再生可能エネルギーは普及していくと思います。更にその中でも我々の身近に普及しているのは太陽光発電だと思います。太陽光発電もこれまでは売電を目的として普及をしてきましたが、売電価格が下がったので、どうしても自家消費にシフトしてくるのではないでしょうか。自分でつくった電気を自分で消費していく。そうすれば蓄電池というものが必要になってきます。現状は蓄電池が高価ですが、今後価格の問題をクリアしていけば、我々電気技術者によって蓄電池をセットで太陽光発電を設置することが提案でき、更に再生可能エネルギーがもっと普及していけば、おのずと環境問題も改善していくだろうと思っています。

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福田:家庭に発電施設ができるということになると、「安全」という観点において電気技術者が果たすべき役割はどんな点にあるとお考えですか。

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齋藤:これも間違いなく、専門的知識を持つ有資格者が工事を行うという点です。 新しく建物を建築する際、電気工事業者が建築業者に対して適切な提案をして設計から工事まで全て有資格者で行っていくということが一番大切な姿勢だと思います。そうでなければ安全性は生まれません。「安全」に対する怖さというのは、目に見えない電気を扱うという点で、勉強で得た知識に頼るところもあると感じています。

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福田:「目に見えない」ものを扱うからこそ、有資格者が必要なんですね。他に資格取得の観点から感じたことなどありましたらお聞かせください。

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齋藤:過去に依頼いただいた省エネルギー関連の仕事で、国の補助金を活用したものがあります。その中で、省エネルギーの計算は有資格者が行うことが条件になっています。つまりお客様が安心して仕事を依頼する相手として、資格を持った電気技術者であることが求められるようになってきており、国が推進している案件においては、資格取得者がいなければ仕事に加わることができません。

活躍する電気技術者達

福田:ありがとうございました。

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福田:それではエネルギーに続きまして、昨今では自然災害などにより通信が途絶えるということが危惧されていますが、電気技術者としての情報通信分野の動向はいかがでしょうか。

活躍する電気技術者達

植草:事務所やビルの管理を行うシステム導入の電気工事における見積もりや図面を見ていると、最近のマンションや住宅における高セキュリティ化、ネットワークを利用して家庭内の消費電力を最適にするスマートハウス化の動きに加え、コンピューター技術と情報通信技術で全てが管理される時代になったと痛感しています。その一方で、災害時などではスマートフォンなどの通信手段があったとしても、電源が確保でき、充電可能な状況でなければ連絡すら取れません。そのため蓄電池を導入する住宅も新しく出ていますし、マンションやビルにおいても非常災害用という意味も含め、太陽光発電や蓄電池による自立運転が可能なものもあり、災害時に電源を確保するという意識が非常に高まっていると感じます。その他では子供たちの安全を守るため学校でのセキュリティに係る情報機器、街中ではモニター画面を使って情報発信するデジタルサイネージなど、災害時にはそのモニター画面から情報発信して避難情報や食料品の備蓄情報を提供する動きも出てきています。それらの情報機器の利用においても、まず電源を確保してから情報をもってくることから電気工事は不可欠であり、電気技術者が必要になります。

活躍する電気技術者達

福田:ありがとうございました。

活躍する電気技術者達
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福田:それでは次に、我が国のエネルギー消費量の約4分の1を占める自動車ですが、環境対策ということでエコカーが注目されています。エコカーの1つとして電気自動車がありますが、普及に向けて欠かせないのが充電スタンドです。充電スタンドの普及状況や今後の見通しはいかがでしょうか。

活躍する電気技術者達

冨田:まず充電スタンドは急速充電型と普通充電型の2つに分かれます。 普通充電スタンドは電気自動車を自宅で充電するため、200Vまたは100Vの単相電源が主流で、満充電にするには8時間から10時間程度充電することが必要です。一方、急速充電器では30分程度の充電で8割ぐらいは充電でき、スーパーとか車のディーラーとか、高速道路のパーキングエリアなどで広がってきています。また急速充電器設置に係る補助金の交付や自動車業界によるサービスの普及推進の流れもあり、ここ1、2年くらいで増えているのではと感じます。これから先、電気自動車が普及するには利用者側の希望する改善点が技術革新などによって解消されることがポイントだと思います。

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福田:充電器自体は一般の方が利用するわけですが、設置の際には電気技術者による工事が必要だと思うのですが、どういった点に注意が必要ですか。

活躍する電気技術者達

冨田:我々工事をする側としては、使っている人がいつ何時でも怪我をしない、感電しないような設備をつくるということです。充電器はどうしても屋外に設置されるので電気技術者としては特に水が怖いです。塩害のある海辺など想定外の設置場所を指定される場合もあるので、水に浸からないよう嵩上げしたり、塩害の影響を受けないように箱に入れるなど、お客様が安全に使える場所と方法をケース・バイ・ケースで提案していくのも電気技術者としての醍醐味だと思います。

活躍する電気技術者達

福田:塩害などもそうですが、今後の電気技術者は単純に電気技術だけを知っていれば仕事ができるわけではなく、様々な知識が必要になってきますね。

活躍する電気技術者達

冨田:はい。以前、産業用機械系メーカーより産業用機械建設の仕事を請け負った時に、電気配線ルートの確保で難航したことがありました。動力系だけでなく、制御系やその他の知識が求められるわけですが、メーカー担当者が自身の担当する分野に専門特化しているため、配線ルートがいくつも存在するケースがありました。実際の施工の時には、それらの配線ルートをひとつにまとめる必要があり、配線ルートの変更計画を考えるためには、電気工事士の知識や技量が求められるところであり、改善提案するためには資格の取得は非常に有効です。

活躍する電気技術者達

福田:ありがとうございました。

活躍する電気技術者達
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福田:続きまして分野が大きく変わりますが、「食の安全」や「農業の6次産業化」で電気を用いた植物工場が注目されています。この分野と電気技術者との関連という点ではどうでしょうか。

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山本:「植物工場」という言葉が皆さんに認知され、植物工場で生産した野菜が食べ始められたのは最近だと感じます。コンビニエンスストアのサンドイッチやサラダなどに採用されてきております。
昨今、天候が安定しないことや、地球温暖化に伴い、季節変動が読めず、作物の生育に影響が出始めています。一方で食の安定供給や食の安全について求められている時代でもあります。食の安全の観点では一般的にはサンドイッチなどの加工品に用いる野菜は洗浄による汚染リスクの低減が義務付けられており、その工程により野菜本来の風味が薄くなってしまう事があります。ですが植物工場の野菜は洗浄の軽減化により、野菜の風味を維持しやすいというメリットがあると考えられます。
植物工場は完全密閉型で電気を使って野菜をつくる施設です。LEDやHf管といった光源、そして環境を制御する空調などで利用する電力は工場全体の90%以上を占めています。昨今、当社が手掛けた植物工場ではLEDが1万4400本使われております、受電設備(キュービクル)の容量は動力で1000KVA、電灯は600KVAという状況で、それだけでも大きな電気容量になります。太陽に代わる光源の選び方、空調による温度管理やそれに伴う湿度管理などいろんな論点があり、技術的にノウハウが無いと野菜の生育はコントロールできません。植物工場は電気の力で生育環境を作り上げますので電気の知識、技術も必要となります。過去には、これらに詳しい技術者がいなかった為、環境制御がうまくできず、野菜がうまく育たなかった例もあります。また野菜の培養液のような水も取り扱うので、漏電などの危険を回避するための設備も含めて、様々なファクターを配慮した設計が重要なポイントになります。電源や空調などの配置まで考慮した設計をして植物工場を運営するとなると、電気技術者を含め様々な分野における技術の結集が必要と考えます。

活躍する電気技術者達

福田:ありがとうございました。

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福田:電気を用いて生育環境を作り上げ、コントロールしていく。なかなか手強そうですね。本日はそれぞれの分野において、さまざまな視点で実体験を踏まえお話をいただきました。電気技術者といっても、活躍する場面は限られている訳ではなく、電気を利用したあらゆる場面で求められ、広く活躍できそうです。本日はその中の一例でしたがお話を伺うことができ、今後より多くの皆様が電気技術者として様々な分野に挑戦し、活躍の場を広げていってもらいたいと思います。本日はありがとうございました。

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